西澤 晋 の 映画日記

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2010年 06月 20日

ブラック・サンデー(1977) ☆☆☆☆☆

f0009381_15562658.jpg監督:ジョン・フランケンハイマー
原作:トマス・ハリス
脚本:アーネスト・レーマン
    ケネス・ロス
    アイヴァン・モファット
撮影:ジョン・A・アロンゾ
音楽:ジョン・ウィリアムズ

出演:ロバート・ショウ
    ブルース・ダーン
    マルト・ケラー

     *     *     *

ジョン・フランケンハイマー ! とにかく無骨に映画を撮る人である。大好きな映画監督の一人だ。

どう説明したらいいだろう‥‥、例えばアニメとか戦隊モノだとちょっと都合が悪くなるとジャンプして場所移動が常套手段なのだけど、それをしない監督さんといったら一番イメージが沸くかもしれない。
それが実存する人間ならA地点からB地点まで行くには走っていくか、歩いていくかよじ登るかしないといけないのである。仮面ライダーみたいに「とぉー」っと一声かけてジャンプして到達出来る訳ではない。ジョン・フランケンハイマーはそういうご都合主義を排除し、そこまで主人公が走らせるのである。
物語の語り口にも同じことが言える。とにかく出来ない事を「映画だから」という言い訳のものとに無理矢理ミラクルにやってしまうことが嫌いなのだと思う。出来る事だけで物事を描こうとする。こういう姿勢、大好きなんだなあ。
最近のお子様向け映画でCGふんだんにつかい出来もしなことを絵にしてしまうアホ監督がやたらと多く、そうんな映像だから物語にリアリティがなくなって「なんか賑やかだけど眠たいなあ」って感じる事がやたらと多い。しかしジョン・フランケンハイマーの映画はそういうことは決してない。
最近の『RONIN』でもやはり、ジョン・フランケンハイマーは久々に復活してジョン・フランケンハイマーだった。出来る事の積み重ねで映画をつくるのである。うれしい! 子供相手の映画なんてもういい加減飽き飽きしてるのできちんとこういう硬派な監督さんの描く映画を見てみたい物だと思うのだが、最近こういう実に無骨か演出を出来る人がいなくなってしまった。

初めてこの映画を見たときの印象は「なんとリアルな映画なんだ。まるでドキュメンタリーをみてるような感じの描き方だ」。勿論映画であり、フィクションなのだけど、実際に起きたことをカメラが同伴して撮ったかのような印象だった。当時はミュンヘンオリンピックの後の<黒い9月>事件の後でもあり後悔が打ち切りになってしまったが、映画としては圧倒的な重厚さをもっていたサスペンス/アクション/パニック映画なので、もっと多くの人にみて欲しい映画だった。

原作は知る人ぞ知るトマス・ハリス『羊たちの沈黙』『レッドドラゴン』などで有名だけど、やはり映画になったものとしてはこの『ブラック・サンデー』が最高傑作だろう。映画だけでなく原作としても、猟奇殺人というマニア受けしそうな題材よりも、この骨太のポリティカルサスペンスのほうが遥かに重厚さがある。もし機会あればレンタルビデオ屋で手に取ってみてほしい。
「ああ、男の映画とはこういう物なのだ!」って再認識するかもしれない。

場所はイスラエル。人里離れた民家(?)。これからの作戦の段取りをきめたあとシャワーを浴びにその場を離れたマルト・ケラー、そこを黒装束の武装勢力に襲われるところから始まる。武装勢力はそこにいる人たちを手際よく殺していく。実にプロらしい。そしてドキュメンタリーっぽい。ほんとの夜襲をカメラが同伴してるのかと思うくらいのリアリティ。
あらかたそこにいる男たちを殺した後シャワー室のカーテンを開くとそこに裸で無防備なマルト・ケラー。武装勢力のボスはある種のためらいがあったが、彼女を生かしたまたその場を離れた。
はっきり言ってこの時点ではどっちが良い者でどっちが悪者なのか分からなかった。このイマイチ訳の分からない導入部だけでももう、観ている者をこの映画にハメてしまう魅力が在る。それはけっして007ものようのうなハッタリ系ドンパチのツカミではなく、実にドキュメンタリー感覚の印象を提示してくれるのだ。
そしてこの夜襲の時に手に入れたテープから事件はアメリカへ展開していく。

やがてそのテープはアメリカのFBIのもとへ辿り着く。持って来たのはその夜襲をかけて部隊のリーダー、カバコフ少佐(ロバート・ショー)である。かれはイスラエルの特殊工作部隊の隊長。彼等が襲撃したのはパレスチナの過激派組織<黒い九月>だった。彼等はアメリカのイスラエルびいきの中東政策に反対し、ミュンヘンオリンピックでイスラエルの選手とコーチを人質に取り殺害してた。そしてその後にこの物語となるアメリカへのテロを計画していたのだ。
そしてカバコフが先の襲撃で手に入れたのは、そのテロ計画が実行された後に流されるはずであった犯行声明の録音テープだった。FBIとカバコフとで犯罪を食い止める捜査がはじまる。
犯行声明に使うはずだったテープがモサドに押収されたことにより、過激は組織の上層部はマルト・ケラーに作戦の中止もとめる。しかし彼女は作戦を実行に移していく。具体的に作戦を計画したのはアメリカの米軍兵ブルース・ダーン。捕虜生活が長くちょっと精神を病んでいる。そして彼等もギリギリの綱引きをしつつテロ計画を実行に移していく。そしてそれぞれのぎりぎりの折衝が出来る事の範囲内で行われてゆき、カメラがそれを記録していくのである。なかでもダーツ爆弾の予備実験に割り当てられた砂漠の真ん中にある小屋。ここの描写などは恐ろしくも美しい。
さすがに最後、飛行船に乗ってからはいささか大雑把になってきたが、それまでのリアリティは優れもの。実に無骨なポリティカル・サスペンス、大人だけの傑作娯楽大作だといっていい。テロを題材にしたクライム・サスペンスとしてはこの映画が最高傑作だろう。

この映画に一つ不満があるとしたら物語が犯人側とFBI側と両方から描かれているところかもしれない。できればFBI側だけから描けなかったものかなって思う。そしたらもっとドキュメンタリー性が出て来たのに‥‥。


この映画を見るとアニメの作り手としてはまたひとつ原点に戻される気分になる。
ジョン・フランケンハイマー師匠は多分こう思っているに違いない。

「ジャンプして場所移動はするなよ。この法則を守るだけでアニメは10倍良いもに仕上がる」

by ssm2438 | 2010-06-20 15:49 | J・フランケンハイマー(1930)


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