2009年 10月 12日
監督:トッド・ウィリアムズ 原作:ジョン・アーヴィング、 『未亡人の一年』(新潮社刊) 脚本:トッド・ウィリアムズ 撮影:テリー・ステイシー 音楽:マーセロ・ザーヴォス 出演:ジェフ・ブリッジス キム・ベイシンガー ジョン・フォスター エル・ファニング ミミ・ロジャース * * * 不思議なことなのだが、実はジョン・アーヴィングの原作で映画になったものは全部みていた。『ガープの世界』、『ホテル・ニューハンプシャー』、『サイモン・バーチ』、『サイダーハウス・ルール』、そしてこの『ドア・イン・ザ・フロア』。特にアーヴィングが好きというわけではないのだが、この人の「沁み込ませ方」は圧倒的に上手いと思う。そしてアーヴィングの特徴は、彼の描く物語はいつも「子宮」の臭いがする。そしてアーヴィングの書く話はいつも、深い悲しみがあり、それでも前向きな姿勢がある。 この物語は、子供を交通事故で失った夫婦の再生へむけた歩みをきりとった映画。家の廊下にはなくなった二人の男の子の写真が額に入れて飾ってある。子供の頃から彼らが死んだ17才と15才の時までの写真。妻はそれを見て毎日をすごすだけ。二人を失ってから生んだ娘はベビーシッター任せ。失意のどん底からまだ這い上がれない妻に対して夫がおこなった最後の荒療治。それがこの物語。夫は妻に仮の息子を与えるために、性格は次男に、面影は長男に似た男の子をアシスタントとして雇った。 アーヴィングの話には近親相姦の構図というのはよく出て来るそうだが、この物語ではなかった。しかし、この男の子を通しての仮想近親相姦と見ることはできるかもしれない。 タイトルの「ドア・イン・ザ・フロア」とは、作家である主人公が書いた絵本のタイトル。そのドアの下にあるものは・・女性にとっては、それはこの世界の下にたえず存在するが、見ないことにしている恐怖・・? 男性にとっては、それは現実の世界・・? そしてそのドアとはヴァギナのこと・・? いろんな解釈が出来るし、多分それはひとつの解釈にとどまることはないだろう。いろいろ含みのある映画だ。 トータルな印象としては、それでも他のアーヴィングの作品よりはなんとなくさらさらしてたかな・・という気がした。そのさらさら感がきもちいい。 <あらすじ> 交通事故で二人の息子(17才のトムと15才のティム)を失ったマリアン・コール(キム・ベイシンガー)にはその後に生まれたルーシー(エル・ファニング)もいるのだが、彼女にはほとんど感心をしめせないくらい虚無感に飲み込まれている。ルーシーの世話は雇ったベビーシッターの女の子が担当していた。そんな妻を虚無感からなんとか救い出しと思いたった夫のテッド・コール(ジェフ・ブリッジズ)は、長男のトムによく似た小説家志望の高校生エディ(ジョン・フォスター)をアシスタントとしてひと夏雇うことをきめ、彼との時間を持たせるために別居を申し出る。彼が始めてロングアイランドの家を訪れたときも、自分で出向かず、マリアンを迎えにいかせた。・・・多分その意図は、どこかの時点でマリアンも感づいていたのだろう。 そんなテッドは、仕事に必要なモデルとしてヴォーン婦人(ミミ・ロジャース)をやとい、彼女のヌードを描いている。もちろん情事もかさねているようだ。彼は小説家であると同時に、挿絵を自分で描いているのだ。二コール・キッドマン以前のトム・クルーズの奥さんだった人だが、体形が崩れかけた熟女であり、匂いたつ感じだ。 事情は知らないエディだが、マリアンの美しさに魅了され、彼女を想いながらオナニーにふける。しかしそのシーンをマリアンにみられてしまう。だからといって騒ぎ立てるわけでもなく、彼が自分を想いオナニーをすることを受け入れるマリアン。そして二人の息子の写真をみながらつぶやく。 「二人はしてたかしら? ・・トムは女の子に人気があったらしてたかもしれないわね。ティムは・・シャイだったからしてないわね。 男の子ってしたいものでしょ?」 「はい。死ぬ前には・・」 ブラウスのボタンをはずしていくマリアン。その意図を理解し自分も服をぬぐエディ。マリアンはエディの手をとり自分の股間を触らせるが、エディは興奮のあまりそれだけでイってしまったようだ。ベットにふたり寝そべり、それだけでもう満足してるというエディを、やさしく、きちん最後まで完了させあげるマリアン。 その夏エディはマリアンと60回セックスをしたという。 そして、マリアンは二人の写真とネガをもって出て行った。 この映画をみて、思い立ったのが、その前にみた『恋愛症候群』のなかにある言葉。 「誰も自分の感情にはさかられないのよ・・」 マリアンは娘を捨てて、二人の写真だけとネガだけをもって消えたのだ。夫のテッドは「俺の息子たちでもあるんだぞ、半分は残していってもいいだろう。ルーシーはどうなる。親権を放棄するのか?」 彼女の心の傷は、理性など入り込むスキもないのだ。そのくらい壊れている。 こういうひとつひとつの言葉と描写が、見てる人の心にじわああああああっと沁み込む、凍えるのよに冷たく、美しい映画だ。
by ssm2438
| 2009-10-12 14:03
|
アバウト
主観重視で映画の感想を書いてます。ネタバレまったく考慮してません。☆の数はあくまで私個人の好みでかなり偏ってます。エンタメ系はポイント低いです。☆☆=普通の出来だと思ってください。 by ssm2438 リンク
ファン
検索
以前の記事
2016年 05月 2013年 12月 2013年 10月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 タグ
☆☆☆(365)
☆☆☆☆(199) 一見の価値あり!(84) ☆☆☆☆☆(84) 貴重なヌードあり!(82) シナリオ勝負映画(82) 撮影的に高品質な映画(81) この女優必見!(80) 楽しいぞ!この映画(80) ダメだこりゃ映画(79) 女優が色っぽい映画(78) 女優が愛らしい映画(76) 自然描写が美しい映画(53) 一見の価値もなし!(53) ダイナミック望遠映画(37) ディープメンタル映画(22) 言葉が素敵な映画(22) リアリズムの映画(20) ぼろ泣き映画(16) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(13) カテゴリ
ジョン・フォード(1894) フランク・キャプラ(1897) A・ヒッチコック(1899) V・デ・シーカ(1901) ウィリアム・ワイラー(1902) ビリー・ワイルダー(1906) フレッド・ジンネマン(1907) 松本清張(1909) 黒澤 明(1910) M・アントニオーニ(1912) ルネ・クレマン(1913) I ・ベルイマン(1918) F・フェリーニ(1920) G・チュフライ(1921) W・A・フレイカー(1923) シドニー・ルメット(1924) 増村保造(1924) H・ウェクスラー(1926) S・キューブリック(1928) J・フランケンハイマー(1930) N・アルメンドロス(1930) ロベール・アンリコ(1931) ゴードン・ウィリス(1931) マイク・ニコルズ(1931) F・トリュフォー(1932) A・タルコフスキー(1932) D・マカヴェイエフ(1932) テオ・アンゲロプロス(1935) ウディ・アレン(1935) R・レッドフォード(1936) リドリー・スコット(1937) 木村大作(1939) ジョン・バダム(1939) W・フリードキン(1939) J・L・ブルックス(1940) エイドリアン・ライン(1941) ノーラ・エフロン(1941) K・キェシロフスキー(1941) ペニー・マーシャル(1943) ピーター・ウィアー(1944) C・デシャネル(1944) ラッセ・ハルストレム(1946) S・スタローン(1946) アイバン・ライトマン(1946) S・スピルバーグ(1946) パトリス・ルコント(1947) E・ズウィック(1952) ゴジラ(1954) G・トルナトーレ(1956) ブラッド・バード(1957) 男はつらいよ(1969) ライフログ
その他のジャンル
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||