西澤 晋 の 映画日記

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2010年 01月 30日

薬指の標本(2004) ☆☆☆

f0009381_945254.jpg監督:ディアーヌ・ベルトラン
原作:小川洋子/『薬指の標本』
脚本:ディアーヌ・ベルトラン
撮影:アラン・デュプランティエ
音楽:ベス・ギボンス

出演:
オルガ・キュリレンコ (イリス)
マルク・バルベ (標本技術士)

     *     *     *

フランスの女性監督ディアーヌ・ベルトランが、『博士の愛した数式』の原作者小川洋子の同名小説を、舞台をフランスに移して映画にした、ミステリアスなラブストーリー。

レモネードの飲料水を造る工場ではたらいている主人公のイリス(オルガ・キュリレンコ)は、次から次へ流れてくるビンの中に、先がこわれているビンを発見、これを取り除こうとして薬指の先を切断してしまう。たぶんこれは「結婚をもうしない女」の象徴だったのかもしれない。そんな彼女は工場を辞め、どこかの誰も知らない港町にやってくる。そのまちで出会った標本技術士(マルク・バルベ)。被支配願望のなかにある種の陶酔をおぼえていく女性の話。女性ならでは話だろう.

ただ、ここに演出上の問題がひとつある。
それは、薬指を切断するシーンをきちんと描いてないために、ほんとに切断してしまったのか、ただの怪我だったのか、よく判らないのだ。それが気になって本来のストーリーにはまれない。そんなわけで私は最初、これが確認できるまでしばらく早回し状態で、2度目でやっとこさ真剣にみられた。
結局、この件に関しては、やはり切断されてしまったのだろうと解釈することにした。そしてその後、指はあるのだが、あれはダミーの指をつけてるかなにかだろうなって思った。ほんとはよく判らないのだが、総解釈するしかなさそうだ。こういうところは大事なところなので、きちんと分るように描いてほしいものだ。


物語の中に登場するラボは、依頼人がもって来たもの標本として保存するところ。標本は依頼主に返すことなく標本室で保管されるが、いつでも見に来ることができる。しかし、来る者はほとんどおらず、皆思い出から解放されるために封じ込めるという。物語の冒頭では、高校生くらいの少女が標本にしてほしいとキノコをもってきた。なんでも彼女が住んでいた家が火事になり総てを失ったのだが、その焼け跡から生えてきたキノコだという。
またある人は、昔の恋人からプレゼントされた楽譜を持ち込んで、それを標本にしてほしいと頼んできたりもする。「影」やら「悪霊」も標本にしてほしいという依頼もあったりするが、それはヒロインのイリスがきっぱりと断っていた(苦笑)。
その建物は、見た目は古びた3階建ての洋館で75部屋もあり、地下にはかつて使っていた沐浴上と、標本技術士の作業部屋がある。上の階の二部屋には一般人が住んでいて、一人はピアニストだった老女、もう一人は電話交換師だったこれも熟年の女性。それに彼女の(どちらかの)孫がときどき顔をだしている。他の部屋は標本の置き場として使われている。
物語が後半にさしかかると、電話交換師だった女性から、「あなたの前にいた女性もある日突然いなくなった。あなたはいなくならないでね」といわれたりする。そこに住んでいる二人の年老いた女性たちは、標本として若さを封じ込めるだけの勇気がなく、しかし去りがたく、そのまま歳をとってしまった女性たちなのかもしれない・・・。

f0009381_9205637.jpg物語の最後の、以前飼って小鳥の骨を標本にしてほしいとたずねてきた靴磨きの男のところにいき、標本技術士から「いつもはいていてほしい」と言われたその靴をみがいてもらう。「その靴を脱いだら自由になれるよ」という靴磨きの男に、「自由になりたくないの」と答えるイリス。
「自由=素晴らしい」、というのは教えられた既存の概念すぎる、・・・それをさらりとドラマにした映画といえるだろう。

主役をつとめたオルガ・キュリレンコは、先ごろ『007/慰めの報酬』でヒロインをつとめたウクライナ出身のファッションモデル。この映画『薬指の標本』でデビューを飾った。とにかく身体が素晴らしい。すごく自然でやせてるいわけでもなく、太ってるわけでもなく、まさに身体のラインはナチュラルなのだ。もっとも脱毛はしているので肌はすべすべだけど。

映画は原作のラインを可能な限り壊さずにつくられているらしい。それでもいくつか追加された条項もある。イリスがホテルで部屋をシェアする男と、ときどきラボに出没する子供はディアーヌ・ベルトランの創作らしい。
ルームシェアの男とは顔もほとんどあわすことがなく(彼は夜港で働いている)が、自由人として付き合える男としての可能性だったのだろう。最初は違和感を感じたが、たしかにあってもいいキャラだと思った。
そしてときどき顔をだす男の子・・・こちらはなんなんでしょうね。ハルシネーションかもしれない。二人の老女がまだ若いとき、彼女たちの若い身体をみていた標本技術士の子供の頃のイメージなのかな・・と思っても見たり。
どちらも原作にはないキャラだが、言葉もない、物語の進行を邪魔しない、しかしさりげなく想像力をかきたててくれる、なかなかいい追加キャラだと思った。

さらにもう一つ付け加えるなら、彼女がやってきた港の風景画いい。
こういうところは望遠にかぎる。

by ssm2438 | 2010-01-30 09:22


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