西澤 晋 の 映画日記

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2010年 02月 23日

ふたりのベロニカ(1991) ☆☆☆☆☆

f0009381_17132921.jpg監督:クシシュトフ・キェシロフスキー
脚本:クシシュトフ・キェシロフスキー
    クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
撮影:スワヴォミール・イジャック
音楽:ズビグニエフ・プレイスネル

出演:イレーヌ・ジャコブ (ふたりのベロニカ)

        *        *        *

共感するもがまったくないのに嫌いになれない不思議な映画

・・・なんなんですかね、この映画は???? 描かれていること総てが総て、私の求めているものとは反対のモノばかりなのだ。

まずこの基本設定。ポーランドとフランスで生まれた同じ誕生日、同じ時間に生まれた、同じ容姿をもつ女ベロニカ。この設定自体に現実のモノとして共感できるものはまるでない。完璧なファンタジーなのだ。
この二人のベロニカは、二人とも音楽に才能がある。しかしポーランドのベロニカは心臓に問題を抱えていたのか、舞台の上で倒れて死んでしまう。ポーランド・ベロニカの死に、ある種のとてつもない喪失感を感じたパリ・ベロニカは、音楽をやめてしまう。これもはなはだ理解できない。というか、そんなんで辞めてほしくない!でも、辞めてしまう。話のはじめにパリ・ベロニカには“H”をする相手が出来たが、すぐに別の男=人形使いの男に魅了されていく。そんな尻軽女ぶりを見せ付けるなよ! その人形遣いも、「ちょっと実験してみただけ」・・ですか? はあ~~~~~ん???? そんな男、好きになりますか?

結果的にここで描かれたパリ・ベロニカは、・・・一言で言うなら、根性なしの、自分の価値観(男に対しても、人生にたいしても)を持たない尻軽女でしかない。この映画は孔子や孟子の教えのような人生教訓を語るような映画ではない。せっかくファンタジーを規範にしたのなら、ファンタジーだからこそ描ける真実というのがありそうなものだけど、そういう類のものでもない。ただひさすらクシシュトフ・キェシロフスキーが自分の妄想を映画にしただけの映画といっていいだろう。
なのに、この映画は、それでも見ている人の心をひきつける何かがある。そこに何かしらの愛がある。なんなんでしょうね、これは???? 

で・・強引に答えをさがしてみた。
・・・・これって、もしかしたら、自らが封印した自分のアンチテーゼへの愛なのかなあって思った。この映画はそういう意図のもとに作られている・・という意味ではなく、クシシュトフ・キェシロフスキーが、つねにそういう感性をもちあわせているのではないかな・・となんとなく感じる。

つまり、人は誰しも二面性を持ち合わせている。頭のなかでは「強くならなければいけない」と状況分析するとそういう答えが出てくるが、反面「弱いままでいいじゃないか」というかんがえある。しかし、現実世界で「「つよくなる」を選択した以上「弱いままでいいじゃないか」は水面下に葬り去ることになる。それは反対かもしれない。「強くならなければいけない」を葬った人もいるだろう。さらにそんな「強い」とか「弱い」といったような白黒つけられないようなものもあるだろう。とにかく、今の自分を存在させるために封印したもの。それは常に自分の意識の中には存在するのだけど、生き方としては表面化しない、いやさせないようにする。それは心の引き出しの奥にそっと隠されたままになる。しかし、それは確かに存在している。たとえ表面化させないとしても、それも愛すべき自分の一部であることには違いない。それも自分なのだ。

f0009381_17135324.jpg・・・キェシロフスキーは、この映画にかぎらず、そういう潜在的に隠されたものに触れる瞬間を映画にしているように思う。感じることで、心の中に存在するその何かを手繰り寄せていくような映画。だから、きっとこの映画は、愛すべき映画なのだと思う。

ポーランド・ベロニカの父のアトリエや、おばの家に行く途中に車中からみた赤いレンガ屋根の教会(?)、これらがパリ・ベロニカの潜在意識の中にあることが語られるとぞわぞわぞわってしてしまう。そして、最後、大地からそびえる樹にふれてみるベロニカ。どああああああああっと湧き上がってくるズビグニエフ・プレイスネルの音楽・・・、まさに訳のわからない感動がだあああああああああああああああっっとあふれる映画だ。

この映画は、クシシュトフ・キェシロフスキーの映像とズビグニエフ・プレイスネルの音楽が、見る人に、その人の理性に隠された潜在意識の自分を愛することを今一度思い起こさせる、恐るべき映画だ!
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by ssm2438 | 2010-02-23 17:16 | K・キェシロフスキー(1941)


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