西澤 晋 の 映画日記

ssm2438.exblog.jp
ブログトップ | ログイン
2011年 02月 16日

ウホッホ探険隊(1986) ☆☆☆☆

ウホッホ探険隊(1986) ☆☆☆☆_f0009381_752985.jpg監督:根岸吉太郎
原作:干刈あがた
脚本:森田芳光
撮影:丸池納
音楽:鈴木さえ子

出演:
十朱幸代 (榎本登起子)
田中邦衛 (榎本和也)
藤真利子 (美際良子)
陣内孝則 (定岡勉)
斉藤慶子 (定岡みどり)
柴田恭兵 (景浦選手)

        *        *        *

「・・・・趣味は?」
「どんなものを?」
「美内すずえ作『ガラスの仮面』」


食品会社の研究所員である夫の仕事の関係で、夫と離れてくらしている主婦十朱幸代が、ある日突然、「実は女ができたんだ」と夫からいわれてショックを受ける。その後展開される子供のささやかな心使いと、残酷さを見事に台詞におこしている。監督は根岸吉太郎、『遠雷』『キャバレー日記』も好きだが、実はこの映画もかなり好きだ。とにかくシナリオがとても繊細だ。本音の部分と、本音を隠す部分のコラボレーションがとても素晴らしい。

女が出来たという話をきかされて数日、再び夫の田中邦衛から、彼女と会って欲しいと連絡がくる。行ってみるとまだ彼女は来ていない。しかたなく先にふたりで焼肉を食べることにする。十朱幸代が冷蔵庫をあけるとが肉があるのだがにんにくが浸してある。

「これ大丈夫かしら・・・、後から来る人に迷惑じゃないかしら・・・」

これから夫の愛人と会うというのに、にんにくの臭いをさせて会うなんて・・とか気にするあたりがとても繊細でいい。相手の女があらわれ、感情をおさえて厳かに挨拶を交わすと、彼女は無理にテンションをあげたように、「私も飲もう」って洋酒をグラスについで一気に飲む。だんだんとテンションがあがっていき、二人の女性の声は大きくなってくる。酒もあおる。結局愛人女性は酔いつぶれてしまう。酔いつぶれた彼女をふたりでベットにはこんであげる。

「この人、重いわね」
「え、そんなことないよ」

さりげない会話が楽しい。うちに帰って食事をしてると、子供たちと食事をしていると「お父さんとどんなことはなしたの?」って聞かれてしまう。ついつい「つまんないことよ」と言葉を濁すと、長男は「そんな言い方するなよ、なんで僕らがはなすことは全部つまんないことなんだよ」とぐれる。次男は料理のなかのにんじんがが大きい。〇〇君のところのにんじんはもっと小さく切ってあってほとんどとろけてるようだという。ぐさぐさである。
めいってしまった十朱幸代は

「どうしてあなたたちはそんなに敏感なの? お母さんだっていろいろあるのよ。たまには知らない振りしてよ」

・・・・こういう台詞がとてもいいんだ。

画面も素晴らしい。気持ちのいい望遠も多用されているし、室内の取り方も立体的に構成されたセットを十分に利用している。手前のナメ方もいいし、他の作品ではこれだけいいとはかんじなかったのだけど、この作品のカメラは素晴らしい。同じ根岸監督の作品で『遠雷』や『キャバレー日記』ではこれほどの完成度はみなかった。これは撮影監督丸池納の力だろう。ただ、この人のほかの作品がいいかというとそうともいえない。『ノーライフキング』なんてのはひどかった。こうしてみると、監督の趣味に合わせる人なのだろうが、本作品の画面構成文句なく素晴らしい。間違いなく根岸監督作品のなかでも図抜けて画面の安定感がある映画だと思う。

<あらすじ>
榎本登起子(十朱幸代)はある雑誌のインタビュア・ライターで、中学生の太郎と小学生の次郎という子供がある。夫の榎本和也(田中邦衛)は食品会社の研究所員で、人里はなれた地方の研究所に詰めている。そんな和也が家に戻って来た。久々に家族揃って食事し、公園にも出かけた。翌日、子供達を学校に送り届け登起子と二人きりになると、和也は「女がいる。一度会って欲しい」と告白する。
次の週末、子供達を母親に預け、登起子は和也のもとを訪れた。和也の同僚で愛人の美際良子(藤真理子)も遅れて和也の部屋にやってきた。三人は飲みながら自分の信じる主張をぶつけていく。誰の主張もそれぞれ理解できる本音であり、それがささやかな虚栄心にオブラートされている。
東京に戻った登起子は、ロック・ミュージシャン定岡勉(陣内孝則)にインタビューするが、彼の傍若無人ぶりに呆れかえる。家族の問題をゆっくり考えようと決意した登起子は暫く仕事を休むことにした。だが、家に一日中いると何をしたらいいかわからず、子供達の部屋を片付けたりもしてみたが、逆に息子たちはにしかられる始末。
精神が不安定になっているところに、定岡の妻・みどり(斉藤慶子)から電話がかかってきた。定岡の自宅に女を連れ込んでいちゃついているというのだ。「私だっていろいろあるのに、なんでこんなところにいるのよ」と登起子はみどりを家に連れ帰り泊めた。翌日の朝食はみどりがつくった。これが上手いとほめられついつい幸せになるみどり、「私、料理とセックスしか取り得がないから」と。

日曜日、登起子は太郎と次郎を連れて公園へ出かけ、キャッチボールをした。その夜、彼女は離婚する決意を子供達に打ち明けた。二人ともショックをうけたようだった。太郎は和也のもとを訪ね、良子とも会話を交わした。

「はじめまして」
「こちらこそ」
「・・・あの趣味は?」
「読書」
「どんなものを?」
「美内すずえ作、『ガラスの仮面』」
「ねえお父さん知ってる? 僕知ってるよ」
(急に盛り上がる太郎と良子)

子供たちは気丈に登起子の離婚はお母さんにまかせるという。登起子は離婚届を提出した。いちもあっさり受理された。不思議なくらいに・・。
和也も良子に離婚したことを伝える。それを知った良子は
「私は和也さんを愛していたけど、奥様から奪おうとは思ってなかった。私はこれ以上望まない。
 今度は、私が奥様の立場になるのは嫌です・・・」と涙ながらに訴えた。

彼女のもとに、以前インタビューした野球選手、景浦からホームランの贈り物をすると電話がかかってきた。嬉しがる母親をはやしたてる太郎と次郎。そこに和也から電話で登起子と子供達に会いたいと言ってきた。その日はまるで初デートの時のようなうきうきした気持ちで和也にあった。和也は良子と別れたと告げた。


ちなみにこのシナリオは森田芳光である。個人的にはこの人の映画はそれほど面白いとはおもわないのだけど、この映画だけはよかった。個性の違う根岸吉太郎森田芳光のコラボとして大成功した例だと思う。
あと、斉藤慶子がめっちゃかわいい。

by ssm2438 | 2011-02-16 07:53


<< 幸せの始まりは(2010) ☆☆☆      渚の果てにこの愛を(1969)... >>