西澤 晋 の 映画日記

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2010年 08月 29日

アグネス(1985) ☆☆☆

f0009381_1243221.jpg監督:ノーマン・ジュイソン
脚本:ジョン・ピールマイアー
撮影:スヴェン・ニクヴィスト
音楽:ジョルジュ・ドルリュー

出演:
ジェーン・フォンダ (マーサ・リヴィングストン)
アン・バンクロフト (ルース院長)
メグ・ティリー (修道女アグネス)

       *        *        *

メグ・ティリーの思い込み信者ぶりが、可憐で哀れで鬼気迫る・・。

作品の完成度としてはきわめて高いミステリーだと思う。そしてそこに宗教と科学という価値観の対立をいれこんでいる。しかしこの映画が特徴的には、この両者をほとんど対等に配置していることだ。
ほとんどの宗教がらみのサスペンスというのは、殺人事件が起きると宗教が捜査の軋轢になり、申し訳度に宗教の活躍する場面もいれつつ、結果的には宗教に迷惑がかからないように、犯人はそれ以外のところに配置されているものだ。ただ、全体的な印象としては<科学>VS<宗教>の対立構造は宗教に分が悪くできているようだ。
この映画もそのイメージは確かにあるのだが、この映画では作者の「なんとか<宗教>を対等な土壌に設定できないものか・・」と考えたその努力が伺える。その努力っぷりがこの映画の魅了だろう。

撮影はスヴェン・ニグヴィスト。ベルイマン映画で活躍した北欧の巨星シネマトグラファーはここでもいい仕事をしている。じみ~~に緊張感あるベルイマン映画にでてきそうな色をこの映画でも出しており、かなり素敵な画面の映画のひとつだ。音楽はジョルジュ・ドルリュー、スタッフ的にも文句のない作品だ。


物語はこのように始まる。
男子禁制のはずの修道院の尼僧アグネス(メグ・ティリー)が出産するが、その子は生まれてすぐクビを締められて殺されたところを発見させる。男子禁制なのになぜ彼女が妊娠する? 単純な疑問がおきる。そのアグネスという尼僧、実は自分が妊娠したことも出産しことも覚えていないという。この彼女の設定がまずよくある様で、実は物語の根幹をなす部分をすべてカバーできるように作りこんである。彼女の母親はアルコール中毒で死んでおり、その母親の妹であるこの修道院のルース院長(アン・バンクロフト)に育てられたという。しかし、このルース院長は彼女に宗教的世界観しか与えず、彼女は神の存在をひたすら信じる女の子に育ってしまった。一般的社会通念だけでなく性的知識もあたえられないまま育った彼女はなぜ自分のお腹が大きくなってきたかすら知らずに過ごしていた。

裁判所は事件調査とアグネスの精神鑑定のために、女性法定精神科医マーサ・リヴィングストン(ジェーン・フォンダ)を修道院におくる。ここからはルース院長と法定精神科医マーサの対立が映画に本筋になっていく。
ルース院長は、アグネスは「奇跡」を起こす力を宿してる主張し、神による処女懐妊であるという。これに対しててマーサは、アグネスが誰かと性交渉をもったから妊娠したのであり、それが誰なのかをつきとめようとする。修道院に出入りする神父を疑うマーサににたいして、信仰傷つけられた憎しみから不快感を感じずにはいられないルース院長。
やがてマーサは修道院の設計図を調べ、外部から修道院の納屋に通じる地下通路を発見する。催眠療法により、その時の記憶をよびもどそうとするマーサ。

壁の板と板の隙間から差し込んでくる日差しはまるでリドリー・スコット。そんな納屋のなかで敷き詰められたワラのうえに横たわりお昼寝をしていた時の出来事。突然、まばゆいばかりの光を感じ、その光の中に「神」の存在を感じした彼女は、その光の中でその手に抱かれた。そして妊娠した彼女は産まれ落ちた子を、自らの手で「神」の許に返したという。

しかしここから大どんでん返し(?)が起きる。告白をしたアグネスの両手、両足から血が流れ出す。処刑されたキリストと同じ傷。これは奇跡なのか? マーサは自分の価値観の外にある信じられないイベントに茫然とたたずむばかりだった。


舞台劇発のこの映画、これがとっておきの最終インパクトというものなのだろう。それまで散々<科学>の前にダウン寸前までうちのめされていたアン・バンクロフトだが、劇作家は同じようにジェーン・フォンダにもそれまで信じていた<科学>というものに疑問を抱かせるエンディングにしてある。

おかげで見ている側もどう解釈していいのかわからなくなる。一応の解釈は納屋で寝ていたメグ・ティリーが、寝ぼけたところを誰かに犯されて子供をはらんでしまい、出産したら殺してしまった・・ってことだと思う。血のくだりは、自律神経まで宗教概念の犯されてしまった彼女の体が、交感神経をさしおいて暴走したということなのかな・・。

by ssm2438 | 2010-08-29 12:49


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