西澤 晋 の 映画日記

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2010年 12月 14日

地下水道(1956) ☆☆☆☆☆

地下水道(1956) ☆☆☆☆☆_f0009381_1616698.jpg監督:アンジェイ・ワイダ
脚本:イエジー・ステファン・スタヴィンスキー
撮影:イエジー・リップマン
音楽:ヤン・クレンツ

出演:
タデウシュ・ヤンツァー (コラブ)
テレサ・イジェフスカ (デイジー)

       *        *        *

夢があるから生きるのではなく、生きるために夢を見るのである!

映画の中では、ドイツ軍に追われたレジスタンスが地下水道に逃げ込むが、悪臭と闇の恐怖のなかでばらばらになり、地上に出ればころされる。夢も希望もない映画である。そして地下水道に逃げ込んだレジスタンスたちも、人間的な弱さや卑怯さでぼろぼろ。地下水道の描写もめちゃめちゃカッコいい。その闇のなかで汚物にまみれ光をもとめてさまよう人間が実に惨めにダイナミックに描かれている。

世間では『灰とダイヤモンド』アンジェイ・ワイダの最高傑作として扱われることが多いが、私的には断然こちらの『地下水道』のほうが好きである。ワイダのほかの映画はあまり良いとは思わないのだが、この映画のポーランドの自虐性は実に惨めでインパクトがありすぎる。

ポーランドという国はいつも支配されてきた国。ショパンの時代には、実質的にロシア帝国の政権下にあり、第一次世界大戦勃発までつづく。第一次世界大戦中はドイツ帝国やオーストリア=ハンガリー帝国に占領されていた。1917年にロシア革命が、1918年にドイツ革命が勃発し、これによって念願の独立のチャンスをえる。しかし、またまた第二次世界大戦でドイツに占領され、そのあとは再びソ連の共産主義体制にくみこまれる。いつも支配されている国なので、抵抗ネタにはことかかない(苦笑)。

この映画は第二次世界大戦時のドイツにより支配下での話である。この映画は、ソ連共産党の傀儡政権として存在していたころのポーランドで作られた映画で、「お前等はこんなにダメ人間なのだから、我々の支配が必要なんだよ」というソ連共産党からの強烈なメッセージも水面下にあるように思われる。「自分達はダメ人間なんだ」という映画を作らされて、それを自虐ネタで作ってしまえるポーランド。そこにポーランド人の美学を少しいれこんでなんとか自己をなぐさめているポーランド。
この惨めさを愛しむポーランドの哀れさこそがこの映画の最大の魅力だろう。

<物語の背景>
第二次世界大戦のさなか、1944年7月30日、ソ連軍はワルシャワから10kmの地点まで到達、ワルシャワ占領も時間の問題と思われた。ソ連軍はポーランド国内のレジスタンスに呼びかけワルシャワで武装蜂起うながす。これをうけて約5万人のポーランド国内軍は蜂起を開始。橋、官庁、駅、ドイツ軍の兵舎、補給所を襲撃する。しかしソ連軍は補給に行き詰まり、進軍を停止していた。さらにドイツ軍が猛烈な反撃にあい、甚大な損害を被る。ヒトラーはこれをみて、ソ連軍がワルシャワを救出する気が全くないと判断し、蜂起した国内軍の弾圧とワルシャワの徹底した破壊を命ずる。

<あらすじ>
地下水道(1956) ☆☆☆☆☆_f0009381_16413212.jpgザドラ(ヴィンチェスワフ・グリンスキー)の率いるパルチザン中隊もドイツ軍に囲まれ、もはや死を待つばかり。生き残ったレジスタンス戦士らは、密かに地下水道を通り、市の中央部に出て再起を図ることとなる。夜になり、ザドラ中尉以下レジスタンス部隊は美少女デイジーの道案内のもと地下水道に入るが、汚泥から発生する有毒ガスと暗黒に道を失ったうえ、ドイツ軍が毒ガスを注入しているという流言や恐怖による発狂で、遅れたり、はぐれてしまう者もでてくる。恐怖に耐えきれず、マンホールから這い出たものはドイツ軍に射殺される。

地下水道(1956) ☆☆☆☆☆_f0009381_16162331.jpg本体からははぐれ、コラブ(タデウシュ・ヤンチャル)とデイジー(テレサ・イゼウスカ)はようやく出口を見つけたものの、そこも鉄格子に閉ざされており、しかも河口に注ぐ出口と知り落胆する。また、先頭を進んでいたザドラ中尉らはついに目的の出口を発見するが、出口には頑丈な鉄柵が張られ、さらに爆薬が仕かけられていた。
一人の隊員の犠牲で爆薬が破裂、出口は開かれザドラと残った一人の従兵は地上へ出た。しかし、後から誰もついて来ない。従兵はザドラが隊員を連れてくるようにとの命に背き、彼らは後から来ると嘘を言い、自分だけが助かりたいばかりにザドラについてきたのだ。嘘をついていた部下をザドラは射殺し、再び地下に潜るのだった。ザラトからはぐれた部隊もなんとか地上に出ることができた。しかしそこにはドイツ兵が銃をもってまちかまえていた。

闇の恐怖が支配する地下水道を進む彼らは、まるで『アギーレ/神の怒り』(1972) のようだ。思えば『アギーレ』でも、あの陰惨な世界のなかで女性だけは綺麗にとられていた。この『地下水道』も、デイジー=テレサ・イゼウスカだけは美しく描かれている。

by ssm2438 | 2010-12-14 16:20


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