西澤 晋 の 映画日記

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2011年 03月 31日

男はつらいよ11/寅次郎忘れな草/浅丘ルリ子(1973) ☆☆☆☆

f0009381_16353044.jpg監督:山田洋次
脚本:山田洋次/宮崎晃/朝間義隆
撮影:高羽哲夫
音楽:山本直純

出演:渥美清(車寅次郎)/浅丘ルリ子(松岡清子)

       *        *        *

リリーさんの本妙は松岡清子である。

リリーさんシリーズの中では一番好きである。しかし、このあと登場する『男はつらいよ・寅次郎相合い傘』『男はつらいよ・寅次郎ハイビスカスの花』に比べるとリリーさんの描きこみ比は少ない。後の2本というのはリリーさんに特化した話なのだが、この話はまだ全体のバランスの中で、一話数のマドンナとして描かれている。リリーさんの人格的な背景を紹介するにたるだけのダークは描写があり、リリーさんの不幸さが一番表面化している。もしかしたらリシーズのなかで一番好きかもしれない。なにせ全部見てないからなんともいえないが、リリーさんシリーズで一番といえば、シリーズで一番の可能性は高いのである。

しかし、寅さん映画というのは1969年から年に2本づつ(多いときには3本の年もある)作られていたのですね。知らなかった。それが後半になってくると年に1本ペースにかわってくる。これは『釣りバカ日誌』の脚本も手がけるようになっており、さすがに山田洋次が他の作品も作ってみたくなったのだろうと勝手に推測する。

シリーズを通じて重要な立場になっていくリリーとの出会いはこんな感じだった。
北の大地をひた走る夜汽車のなかで寅次郎(渥美清)は涙をふく女をみかける。やがて網走におりたった寅次郎は品もを仕入れて街角でレコードを売うる。しかしなかなか客はくいついてくれない。橋の上でしょんぼりしてると「なかなか売れないねえ」と声をかけてくる女がいた。地方のキャバレーを廻って歌っている三流歌手で松岡リリー(浅丘ルリ子)といい、レコードも出したことはあるらしい。寅次郎の売っているレコードのなかに「私のレコードもあるかしら」と言うはあるはずもない。しかし同じドサ回り人生、互いの気持ちがどことなくシンクロしていく。

この映画の感動ポイントの一つは音楽。
リリーさんの登場シーンでかかる松岡リリー愛のテーマ(ニーノ・ロータ『ゴッドファーザー愛のテーマ』風)が実に哀愁をさそうのである。その物悲しいテーマ曲をバックにリリーがかたるドサ回り人生。
ここの画面がまたいい。手前に丘に上がった漁船の舵とおっきなスクリューなめて二人を撮っている。できるなら夕暮れまでひっぱってこの絵をシルエットの望遠で切り取るカットを一発入れてほしかった。

この出会いで、自分達を「あぶくのような人生」と語るリリーの言葉に心機一転、寅次郎は北海道の開拓農家の手伝いをボランティアでやりたいと申し出る。希望者を紹介する機関を通じて玉木という農家に受け入れてもらった寅次郎だが、慣れないハードワークでダウン。その連絡を受けたさくらが寅次郎を回収にはるばる北海道までやってくるしまつ。そして柴又もどった寅次郎をリリーが尋ねてくる。《とらや》で家族のいる空気に触る。

そのあと寅次郎の昔の恋愛ネタなどが紐解かれるが、このくだりが実に楽しい。つぎから次へと出てくる失恋相手の女の名前。そんな話からリリーの恋愛に話をふられる。「あんたに惚れる男なんて一杯いるだろう」という言葉に「惚れられたいんじゃないの、惚れたいの」というリリー。付き合った男はいるけど、好きになった男はいなかったと言うリリーに、「でも初恋はあるだろう? リリーさんの初恋は?」と聞かれ沈黙のリリー。幼少のころから家を飛び出したリリーにそう呼べる恋愛などなかったのだ。・・・・そして、「もしかしたら私の初恋は寅さんかもしれない」と言う。
その夜は《とらや》に泊まることになるリリー。布団を敷かれていると服をきたままそのなかにもぐりこむ。のりのはってあるシーツに感動するリリー。声をかければ隣から寅次郎の声がする。下にはおじちゃんとおばちゃんがいる。
さりげなくリリーの不幸がにじみ出る描写が素晴らしい。

そしてその後、リリーの不幸の描写が具現化してくる。飲み屋をやっている母をたずねるリリー。個々では清子と呼ばれる。彼女の本名である。会えば金をせびる母。娘の名前でなんとか客を自分の店につなぎとめようとする母、そんな母に「それでも親のつもりかい。あんたなんか、大嫌い。いなければいい」と言うリリー。

誰もが寝静まったその夜《とらや》の戸口を叩くリリーの声がする。世間体など考えず、酔って悪態ついくリリー。歌っているとよっぱらない絡まれ、その男をひっぱたいたらマネージャーに怒られたというのだ。今すぐに旅に出ようというリリー。ああ、出よう出ようと寅次郎。
寝静まった《とらや》の店内でなんとかなだめようとする寅次郎に「寅さんにはこんないい家があるんだもんね。あたしと違うもんね・・」というリリー。おばちゃんも心配してふすまから顔をだす。酒を飲んで歌いだすリリーはさすがにうるさい。「昼間はみんな働いて、疲れてねてるんだから・・、ここはカタギの家なんだぜ」とさとす寅次郎。
「あたし帰る」といって戸口に向かうリリーを止める寅次郎だが、「どうせここはあたしの来るところじゃないだろう。寅さん、あたしの話なんにもきいてくれないじゃないか・嫌いだよ」と涙を一杯駆け出していくリリー。さすがに深夜の、それも《とらや》での悪態に怒りをおぼえる寅次郎は、おばちゃんの「止めなくて?」の言葉も「かまわねえよ」と吐き捨てる。

そのあと寅次郎がリリーアパートを訪ねる。はいってみると鍵はかかってない。汚く狭い4畳半のアパート、となりは子供の声がうるさいアパート。今朝方いるものだけもって出て行ったとか。「こんなところであいつはひとり暮らしていたのか・・」とリリーの人生を知る寅次郎。めちゃくちゃ切ない。

その後そのまま旅に出ることにした寅次郎は上野駅までさくらに荷物を持って来させる。自分の留守中にリリーが来たら、二階に下宿させるようとさくらに頼み、子供に飴でもかってやれと札だそうとするが財布の中には500円札1枚。それをみて、自分の財布から札をとりだし、綺麗に伸ばして寅次郎の財布にいれてやるさくら。なんでこんなんで泣かされるんだとおもうくらい、こんな描写でも泣かされてしまう。

その後《とらや》にリリーからはがきが届く。寿司屋の板前石田良吉(毒蝮三太夫)と結婚して小さな店を出したという。その店を尋ねたさくらは、以前とは想像もつかぬ程血色がよく、生き生きと働いている清子と呼ばれるリリーを見るのだった。

by ssm2438 | 2011-03-31 05:37 | 男はつらいよ(1969)


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