西澤 晋 の 映画日記

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2011年 03月 31日

男はつらいよ8/寅次郎恋歌/池内淳子(1971)☆☆☆☆

f0009381_22222277.jpg監督:山田洋次
脚本:山田洋次/朝間義隆
撮影:高羽哲夫
音楽:山本直純

出演:
渥美清 (車寅次郎)
志村喬 (博の父)
池内淳子 (六波羅貴子)

       *        *        *

うぬぬぬぬぬ。これは地味だけど名作だ!

どわああああああとある一瞬から泣けるんじゃなくて、じわじわじわじわじわじわじわ・・ってきていつの間にか目の周りが湿ってる感じ。強烈な感動ポイントをつくってる映画じゃないのだけど、むちゃくちゃ質の高い映画だね。『男はつらいよ』のシリーズのなかで一番気品のある一本だろう。
この映画のなかでは、辛いことをみんなが心で噛みしめて出さない。意地でもださない。志村喬素敵。寅さんも素敵。池内淳子も素敵。この映画のあと死んじゃった森川信(おいちゃん)も素敵。みんな素敵過ぎる! 私の趣味はおいといて、寅さん映画の最高傑作はこれかもしれない。

どの映画にも幸せになっていはいけない人といのがいるものだ。『アリーmy Love』のイレインもそうだけど、この映画の志村喬も幸せになったらいかん人だね。この人がこれからの人生ずっと針のむしろだからこの映画は面白い。とくにこの映画においてに、博の父(志村喬)の全人生否定はすさまじい。これだけ否定されてなにも返さない志村喬も素敵だ。そしてその寂しさを汲んであげる唯一の存在の寅さんも存在感も素敵だ。

物語は、例によって車寅次郎が《とらや》のめんめんとけんかをして出て行ったあと、博のところに電報が届くところから始まる。「ハハキトク」。とりいそぎ岡山の高梁市にむかった博とさくらだが、とき既におそく母は死んでいた。この通夜の席がすごい。博の兄二人は、体裁をつくろった言葉しかはかないなかで、博だけは感情を爆裂される。

「おかあさんが人並みの女性のような欲望をもっていなかったなんて嘘だ。僕のてをひいて港にいき、出て行く船をみながら、私の夢は外国にいくことだったの。舞踏会で胸の開いたドレスをきて踊ることだったの。でも、お父さんと結婚してそんな夢はあきらめたわと笑っていってた」と話す博。「もう思い残すことはない」といって死んでいった母の言葉に、「最後まで嘘をついていたんだ」と嘆く。「おとうさんの女中みたな生活を幸せだなんて思っていたとしたら、これ以上可哀想ことがあるもんか」と号泣する博。
父ちゃん全否定である。よくもなあこんな残酷な台詞をかけたものだ感動してしまう。そして一言も反論しない志村喬。またこれがいいんだ。この葬式のシーンは名シーンだね。凄過ぎです!!

みんなが帰った後の志村喬はさびしそうだなと思い、《とらや》から電話をかけるさくら。しかしその電話にでたのは寅次郎だった。孤独な志村喬と一人だけ時間をともにすることができる寅次郎。山田洋次演出おそりべし!

東京にもどってからは今回のマドンナ池内淳子と寅さんの話。今回のマドンナ六波羅貴子(池内淳子)は夫と死に別れて、女で一つで子供を育てている喫茶店の主人。子供も、新しく転向してきたクラスになじめないでいる。しかし、寅次郎が近所の子供をまきこんで遊んでやると、貴子の子供も一気にまわりの子供達となかよくなって、喫茶店に友達をつれてくるようになる。しかし、貴子にも悩みがあった。どうも借金があるらしい。その取立てに苦労している貴子をみて、がむしゃらに道端で露店をひらいている寅次郎。切ない。警官がきて「あんた許可はとってるの」といい。「すいません、すぐ片付けます」といって切なくものをしまう寅次郎。その売っている本をみて「なに、つまんねえの」と吐き捨てる警官。無言の寅次郎。どんなに寅次郎がモノを売っても、こればっかりは何も出来ない。
「なにか、嫌な奴でもいるんじゃござんせんか。指の一本や二本、いや片腕くらいは・・」という寅次郎の言葉に感動する貴子だが、気丈な彼女はお金のことは大変だけど自分でなんとかしていくと言いきる。

貴子も苦しみを噛みしめて言葉にださない。寅次郎も、なにも言わず旅にでていく。みんながみんな自分の苦しみを自分の喉の奥に飲み込んで意地でもださない。

「私も寅さんみたいに旅にでたいわ」という貴子。もちろんそんなことは思ってもいない。貴子にとってはそれは現実逃避であり、憧れてはしてもありえない卑怯なこと。その言葉をきいて身を引く寅次郎。だあああああああ、泣ける。別れも言葉も失恋のイベントすらないのに、《とらや》にかえり荷造りをはじめる寅次郎。そとは木枯らしの夜。ひきとめるようとするさくらに「おまえ、オレのようになりたいか?」と聞くと、「なりたいわ、お兄ちゃんのようなって、私を心配させたい」という。また、だああああああああああああ。
そして木枯らしのなかを出て行く寅次郎。

この映画を最後においちゃん役の森川信が肝臓ガンでなくなりました。たぶんこの時すでにガンにおかされていたのでしょう。きっとおいちゃんも、苦しみを喉の奥に飲み込んで演技していたのでしょう。

総てが素晴らしい寅さん映画の金字塔である。

by ssm2438 | 2011-03-31 08:23 | 男はつらいよ(1969)


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