西澤 晋 の 映画日記

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2011年 03月 01日

男はつらいよ47/拝啓車寅次郎様/かたせ梨乃・牧瀬里穂(1994) ☆

男はつらいよ47/拝啓車寅次郎様/かたせ梨乃・牧瀬里穂(1994) ☆_f0009381_11455291.jpg監督:山田洋次
脚本:山田洋次/朝間義隆
撮影:高羽哲夫/池谷秀行
音楽:山本直純

出演:
渥美清 (車寅次郎)
吉岡秀隆 (諏訪満男)
かたせ梨乃 (宮典子)
牧瀬里穂 (川井菜穂)
山田雅人 (井川信夫)

       *        *        *

牧瀬里穂と山田雅人の元気よさはすばらしい!

寅次郎とさくら、寅次郎と満男の師弟関係よりも、牧瀬里穂山田雅人の姉妹関係のほうがみていて楽しい映画であった。・・・うむむむむ、主役が脇役に元気さでまけるようだと、作品としてかなり枯れてきたとしかいいようがない。
寅次郎にも満男にも、今回のマドンナのかたせ梨乃にも、現状を突き抜けようとする覇気を感じることが出来ない。どこがどう・・というのではなく、トータルな印象としてエネルギーを感じないのだ。

42作目から主人公が満男にシフトし、寅さんが恋のサポーター役にまわってしまった『男はつらいよ』のシリーズ。恋愛の案是地帯にはいってしまった寅さんにはあまり魅力を感じなくなってしまった。他人の恋愛には強気でアドバイスできる寅次郎も、自分の恋愛だとチキンであるからこそ味があるのに、サポーター役に回ってしまうとその味もない。その言葉に哀愁がない。説得力も乏しく思えてしまう。
そもそも、寅次郎の言葉というのは、現実の社会の中で生きていくための説得力のある言葉ではない。それがすばらしいんだ、と演出されているから、見ている間はそう感じることが出来るのだが、個人的にはちょっと場違いな気がすることも多い。これが昭和の時代なら納得できるのだけど、先端のとんがったひかり号がが走る時代になってしまうと<時代に対応できなかった人>とう印象がつよくなってきている。その人にアドバイスをうけてもあまりぴんとこないのだ。

さらに渥美清の体調もすぐれず、このときすでに肝臓癌が肺にも転移してドクターストップが出てた。そんな状態で撮影した映画なので声にも張りがなく、寅次郎としての生命力がうすくなったのを感じずにはおられない。

しかし、かたせ梨乃とのやりとりはきもちよかった。かたせ梨乃演じる典子の設定は、ちょっといいとこの家庭で家ももち、子供もいて意見普通にみえるのだが、夫婦間はかなり冷え切っている。ま、これも案外普通程度かもしれないのだけど。
そんな彼女にとっては年に一回の撮影旅行が彼女の自分のやりたいことを出来る、そしてやりたくないことをしないでもいい非日常であり、そこで出会った寅次郎との時間がこころをなごませる非日常なのだ。この非日常にふれるかたせ梨乃のいきいきしているそぶりがみていて気持ちいい。そしてそれがまだこれから数日つづくと思っていたやさきに突然終わる寂しさ。そのあとの日常に戻った彼女。この夢のときをすごした感がとてもよかった。

そしてもうひとつ、この映画の中で生命力にあふれているのが、山田雅人演じる満男の大学時代の先輩・井川信夫。そしてその妹・奈穂演じる牧瀬里穂。このふたりのやりとりはみていてきもちがいい。今回の映画をもりあげたのはひとえに山田雅人のキャラクターはおおきい。

<あらすじ>
就職して半年がたった満男(吉岡秀隆)は、今の仕事にすっかり嫌気がさしていた。そんな満男のもとに大学時代の先輩・川井信夫から便りが届く。満男は休日を利用して井川の地元滋賀県長浜市をたずねる。そこで信夫の妹奈穂(牧瀬里穂)と知り合い、最初はギクシャクしていた二人の関係だったが次第に心を通わせていく。別れるときに日は二人は恋人どうしような感覚さえ覚えるのだが、実は信夫がしくんだアレンジメントデートだということが分かり、自分の人生をコントロールされたことに怒りを覚える奈穂。でおじゃん。まんざらでもなかった満男は、その報告をきいてショボン。
一方寅次郎(渥美清)は、琵琶湖のほとりで、東京から旅行にきている宮典子(かたせ梨乃)に出会う。写真を趣味として年に1回、1週間くらいの一人旅を楽しんでいるのである。しかし、その途中腕を脱臼、寅次郎に看護されたことから心をかよわせていく。典子の家庭は一見幸せそうな家族だが、心は冷め切っていた。そんな状態で寅次郎にあった典子だったが、夫が突然迎えに来て、二人の時間は終わりをつげる。
しばらくして、《とらや》に典子が尋ねてくる。寅次郎はいなかった。それをきいて、東京にもどった寅次郎は満男に運転させて典子の家を尋ねてみる。
車のまどから覗き見た、典子はすでに彼女の普段の生活にもどったようである。それをみて立ちさる寅次郎。その帰り、《とらや》には帰らず江ノ電から旅にでる寅次郎。満男との別れ際に

「ほっとしたなんて、情けないないことを言うな。ほっとしたなんてのは。人生をやりおえた、50や60の老人の言葉だ」

という。これがなかなか良かった。若いうちは、失うのが怖くても求めて、はらはらどきどきして、胸が苦しくなって、その繰り返しでいい。ほっとなんかしなくていいのである。どこかの哲学者も同じようなことを言っていた。

「自然が美しいと思うのは、足を棺おけにつっこんでいる人だけだ」


このあと、正月になり、泉ちゃん登場かな・・?って思ってたら、奈穂が満男の家を訪ねてくる。とたんに元気になる満男。奈穂は、<結婚する気がない女>という設定で、満男との関係がふかくならあいように配慮してあるようす。さすがに46作目でも、瀬戸内海の看護婦さん亜矢ちゃんとキスまでするなかになっており、かなり機が多いキャラクターになっていている。ドラマの性質上致し方ないかなと思うが、どんどん満男が軽薄になっていくようでいかんな。

by SSM2438 | 2011-03-01 11:46 | 男はつらいよ(1969)


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