西澤 晋 の 映画日記

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2011年 06月 30日

四月物語(1998) ☆☆☆☆

f0009381_2316565.jpg監督:岩井俊二
脚本:岩井俊二
撮影:篠田昇
音楽:CLASSIC

出演:松たか子(楡野卯月)/田辺誠一(山崎先輩)

何もかもが新しくなる月、それが4月。

       *        *        *

物語は、大学に通うために北海道から上京して女の子の話。普通の家庭で育った彼女が、一人暮らしを始める4月。そこで体験する社会というもの。大人になって思えばなにもかも、取るに足らないエピソードなのだけど、それがあの時代だからこそ、とっても新鮮だったと思い起こさせてくれる映画。

監督は『Love Letter』岩井俊二。小作品なれど、どうも私はこういう話は好きらしく、ついつい嬉しくなってしまう。特にすっごいイベントがあるわけでもないのだけど、さりげないシーンにポイントポイントを絞り込んでそれを丹念に、繊細に岩井俊二が描いてくれる。そしてそのシーンを見終わるとおおおおおおって思ってしまう。

たとえば冒頭のシーン。
映画が始まると主人公の家族達が、カメラを見送りに駅にきている。普通にそだった家庭らしくいさまが演出される。もちろん、そこで育った主人公がはじめて家をでるのだがらそれなりのイベントであはあるのだけど、普通はそれほど深刻でもないものだ。出発まであと何分あるのか判らないのだけど、それまでの時間をどう埋めていいのかわからず、みんながさしあたりのない意味のない言葉でなんと時間を埋めていると、顔見知りの駅員さんやってきて会話にはいってくれることで、ちょっと間がもつ。しかし、その駅員さんがだらだら話している間に列車の窓が閉まり、本来その瞬間に言うはずだった「じゃあね」とか「気をつけてね」とか、そういった締めの言葉が交わせないまま列車は走り出してしまい、硝子の向こうでは、なにやら家族の人たちがそんな言葉を言っているらしいが聞こえない。
寂しいというわけではないのだが、照れてきちんと別れの言葉を交わさなかったことにささやかな後悔を感じさせる。
うむむむむむ、上手い! と思ってしまう。
ただ、絵はハンディカメラで撮られた映像でかなり画角が広く、気持ち悪い。

やがて東京の自分のこれから住むことになっているアパートの一室に入ってみると、まだ荷物はとどいてないらしく、なにもない畳の部屋があるだけ。窓をみながらその部屋の真ん中にぺたんと座り込み、こて~~~んと横になる主人公の後ろ姿。「とりあえずここまでやりとげたぞ」っていうささやかな安堵感。お茶漬けが食べたい気分だっただろう。

やがて引越し屋さんがちょっと遅れて彼女の荷物をもってくる。この「ちょっと遅れて」っていうのがまたポイント。なにもかもが新しい時には、ちょっと予定が狂うだけでも不安が2倍にも3倍にも膨れ上がるものだ。荷物は実家の親が用意してくれたものらしく、部屋にいれてみると全部が入らないというトラブル発生。どうしていいのかわからない主人公は、ただただ引越し屋さんの言いなりになるしかない。とりあえず必要なものだけのこしてあとは持ち帰るということになるのだが、なにが必要かどうかも引越し屋さんが勝手に判断して作業が行われる。たぶん出かけるときに親が「これももっていけば、あれももっていけば」と言ってくれた結果運ばれたものや、自分がどうしてもこれは欲しいって言って運んできてもらったもたち。それが来客用の布団やソファだったのだろう。それらが無常にも彼らの勝手な判断で運び出される。自分が無力で世間知らずなことも理解している彼女は、なるようになったあと一人でどうするか考えようと思ったのだろう。
さんざんそんなシーンを描いておいて、最後に「これどうする?」って差し出される小さなスチール製の椅子。それを抱きかかえる主人公。唯一自分の選択が許されたもの。それを彼女は、自分の判断で残すことにする。今自分に出来ることがこれだけなのか・・という、自分の小ささを表現するにがあまりある素敵な演出だ。
う~~~ま~~~~い~~~~ぞ~~~~~~。

そういうさりげないやりとりがただただ描かれていく。
それでも、新鮮で素敵な映画なのだが、後半にはいってから主人公がこの大学にはいった動機がすこしづつ明らかにされていく。それはお・と・こ。
実は、彼女には高校時代に憧れていたひとつ上の先輩がいて、彼がこの大学に入ったからというもの。やがて彼がバイトしている本屋をみつけ、少しづつ時間を持っている間に、彼も彼女の存在を認知し始める・・というもの。

最後も彼女の想いいが通じ、付き合い始めるとかいうようなドラマチックなものではない。彼の中で、その他大勢の一人でしかなかった存在の自分が、彼の中に楡野卯月という存在を芽生えさせたぞ!というところで終わる。

はずす時はとことんはずす岩井俊二なれど、この『四月物語』と『Love Letter』は好きである。

by ssm2438 | 2011-06-30 23:14


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