西澤 晋 の 映画日記

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2012年 05月 27日

小さな唇(1974) ☆☆

小さな唇(1974) ☆☆_f0009381_22232530.jpg原題:PICCOLE LABBRA/LITTLE LIPS

監督:ミモ・カタリニチ
脚本:ダニエル・サンチェス
撮影:サンドロ・マンコーリ
音楽:ステルヴィオ・チプリアーニ

出演:
ピエール・クレマンティ (ポール)
カティア・バーガー (エヴァ)

     ×   ×   ×

よくあるロリータものなのだけど、けっこう格調高く描いているほうかもしれない。面白いとはいえないけど、映画作りの方向性としては決して悪くないし、きちんとドラマのツボもついている。

この映画の主人公は、第一次世界大戦での恐怖の中で、瀕死の重傷をおったがなんとか生きて生還した。しかし、男性機能が損傷を受け不能になっていたという設定。この男は、小説家でマッチョなタイプではない。戦争があろうとなかろうと、力というものに対しては常に劣等感を感じて生きてたであろう人物。そしてさらに、戦争で負傷し、びっこをひいて歩くようになり、性的な不能者になってしまった。なんとか生きて戻ってきたが、いつも自殺を考えているような男。

ポイントは「弱き男の劣等感」。
このテーマは男なら誰でも持っている潜在的な劣等感であり、男にとってはかなり自虐的なテーマなので気持ちよくかたられるべきカテゴリーではないのだけど、正面きって描いているところがなかなか良いのです。
男性の競争社会のなかで、アタリを見渡すとどうしても自分が勝ち残っていけるとは思えないようなシチュエーション。それでもなんとかもがいていかないといけないのが男の人生なのだけど、それ以上に自分の無能ぶりしか認識できず日々劣等感の中で生きている。切実です。
ただ、そんな劣等感地獄で今にも溺れそうな男が、夢見るネタを見つけたぞ・・という話。男というのは夢さえ見られれば生きていけるものです。
しかし、物語が幸せに終わりそうにないのは当然のこと。最初のうちは自分だけは彼女との接点をもっていた男だったのだけど、だんだんと他の男の存在があらわれ、そうするうちに自分の劣等感が膨張していく。さりげなくさそってはいるのだけど、“H”をしてくれない男を傷付けるように、他の男と“H”をしてしまう女の子、それを目撃してしまい、自殺・・・・。

『シベールの日曜日』とダブるようなシチュエーションですが、こっちのほうがエッチな妄想をしつつも出来ないふがいなさという健康な苦悶にみちてます。『シベールの・・・』の場合は、健全なプラトニックラブ的なものなのだけど、他の大人たちはそう見ないことからの不幸な流れですが、私個人はああいうのはあんまり健全だとは思わないので、それにくらべると、こちらの主人公のほうがはるかに健全に思えるかな。

<あらすじ>
第一次世界大戦前、作家として活躍していたポール(ピエール・クレマンティ)は皆の羨望の的であった。戦争から帰ったポールは、足の付け根を負傷し、びっこを引いて歩くにようになっていた。さらに男性機能も失ってしまっていた。
ウィーンの田舎の自宅に戻ったポールは、自分の部屋に閉じこもり自殺を考えている。そんな彼を見つめる視線に気づく。それは執事フランツ(ホセ・ルイス)の姪エヴァ(カティア・バーガー)だった。彼女も戦争で親を失い、フランツが引き取って面倒をみていたのだ。
エヴァは、ポールの「想像する人」になった。そしてポールはそのことに生きていることを見出すようになれた。
エヴァは無口で無邪気ではないが、自分に興味をもっているらしいポールに警戒心はいだかない。というよりも女性としてみてもらうことを望んでいるようでもあった。
ポールは、彼女との交遊を題材に一篇の小説を書きあげようとする。ポールにとってエヴァは生へのモチベーションなのだが、その状況になっても“H”を行動できないでいた。ある日ウィーンの出版社のパーティから戻ってきたポールは、エヴァがジプシーの少年と愛を交わしている姿を目撃し、銃で自分の頭を撃ち抜くのだった。

by ssm2438 | 2012-05-27 22:23


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