西澤 晋 の 映画日記

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2009年 05月 13日

パララックス・ビュー(1974) ☆☆☆☆

パララックス・ビュー(1974) ☆☆☆☆_f0009381_2322325.jpg監督:アラン・J・パクラ
脚本:デヴィッド・ガイラー
    ロレンツォ・センプル・Jr
撮影:ゴードン・ウィリス
音楽:マイケル・スモール

出演:ウォーレン・ベイティ
    ウィリアム・ダニエルズ

     *     *     *

『コールガール』
ひ引き続き、何をとっても面白くないアラン・J・パクラ。そんな彼の面白さはなんだろうか? 事実この『パララックスビュー』も面白いという人はそれほどいないだろう。しかし、見るポイントさえ理解すれば面白くみられるのがこのアラン・J・パクラなのだ。

一般的な見方としてこのアラン・J・パクラも社会派の監督さんだと言われる。『大統領の陰謀』『ソフィーの選択』『デビル』『ペリカン文書』など、どちらかというとポリティカルサスペンスの分野における社会派だろう。
同じ社会派の監督さんでもシドニー・ルメットの場合は社会との軋轢や矛盾のなかでいかに自分が自分でありつづけるかをテーマしていて、それゆえ描き方もヒューマンドラマの形をとる。しかしこのアラン・J・パクラの映画では主人公が戦うのは(どちらかというと一方的に苦しめられるのは)、圧倒的に太刀打ちできない社会構造になっている。この『パララックスビュー』ウォーレン・ベイティ『コールガール』ジェーン・フォンダ『ソフィーの選択』メリル・ストリープ。どれも圧倒的な社会のなかで圧迫されているキャラクターであり、彼らがどれだけがんばっても彼らをとりまく社会構造が変わるとは思えない。
そんなわけで、彼の作品ではなかなか主人公に感情移入できないのだ。なので結果として「何をとっても面白くないアラン・J・パクラ」ということになる。

実際ドラマとしては面白くないと思う。普通の人間がドラマを見るとき、主人公に感情移入し、主人公が勝利すれば自分の喜びとしてその物語を感動することができる。それこそが商業的ドラマの基本なのだが、このパターンに引き込むには見ているひとに感情移入をおこさせないと話しにならない。感情移入は強者には移入しない。つねに弱者に対してのみおきることだ。この弱者である部分を描こうとすれば作り手が自らの心の闇にダイブしなければ描けない。
このアラン・J・パクラという人は、基本制作者あがりなので、自らの心を暴くというドラマライターだけが有する暴く勇気が欠如しているのだろう。そのかわりに彼がもっているのは社会的な理解や矛盾。彼の場合は主人公に感情移入させる能力は欠如しているが、主人公を社会的に圧迫していく政治力には詳しいのだろう。

ドラマ書きとしての資質がない人が書くとこういうドラマになりますよ・・という典型だが、それゆえヒューマン主事に流されない冷めて眼で社会を見つめるドラマが描けているわけだ。
・・・でも、やっぱり何をやってもつまらないアラン・J・パクラなのだ。


この物語はシアトルである大統領候補が暗殺されるところから始まる。あとあとわかっていくるのだがその暗殺にはそのとき捕まった犯人以外に狙撃者がいたのでは・・という疑問がもたれてくる。やがてその事実を封印するかのようにそのとき現場にいた何人かが次々と変死をとげていく。それから数年たってこの物語の主人公、ジャーナリストのジョー・フラディ(ウォーレン・ベイティ)のもとに女性ジャーナリストが訪問おとすれる。彼女もその現場に居合わせた一人なのだが、自分も殺されるとひどく怯えていた。そのときは取り合わなかったフラディだが、その予測どうり彼女は死んだ。自殺ということになっていたが、その死に疑問をもったフラディは単独で調査にのりだす。
やがて彼は反社会的な人物をとりこみ、洗脳し、暗殺者として、その組織を運営する何者かの不利益になる人物を消去していく巨大な組織があることにきずく。と同時にフラディも何度となく危機にさらされる。その会社に潜入するフラディ。そして次のターゲットは次期大統領候補のハモンド上院議員だと知る。なんとかその陰謀を食い止めようとハモンド議員の選挙運動の会場に侵入するが、あえなく議員は狙撃され、フラディ自身もそのどたばたのなかで射殺される。事件その狙撃犯としてフラディの名前があげられ捜査は終了する。

私がみていても実に後味のよくない映画で、やはり何をとっても面白くないアラン・J・パクラの面白くない映画のひとつではあるが、その<見えない巨大な権力に翻弄される個人>というアラン・J・パクラの基本コンセプトはここでもはっきりと見て取ることが出来る。
そしてその重厚なサスペンスを盛り上げるのは氷のフィルターを持つ男=ゴードン・ウィリスである。かれの画面はこの映画でも圧倒的にすばらしく、巨大な巨悪の冷徹さを画面に表現している。すばらしい。本編の物語はおもしろくないかもしれないが、彼の絵作りをみるだけでもこの映画は価値がある。☆ふたつおまけ。つまんなくても私の好きな映画のひとつなのだ。画面の質感を感じてほしい。
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by ssm2438 | 2009-05-13 02:35 | ゴードン・ウィリス(1931)


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