西澤 晋 の 映画日記

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2009年 12月 11日

ガン・ホー(1986) ☆☆☆☆

ガン・ホー(1986) ☆☆☆☆_f0009381_4501622.jpg監督:ロン・ハワード
脚本:ローウェル・ガンツ、ババルー・マンデル
撮影:ドン・ピーターマン
音楽:トーマス・ニューマン

出演
マイケル・キートン (ハンク・スティーブンソン)
ゲディ・ワタナベ (高原カズヒロ)
ミミ・ロジャース (ハンクの恋人・オードリー)
山村聡 (アッサン自動車重役・坂本)

        *        *        *

変な日本人は出て来ようとも、この映画は燃える!! 私は大好きだ。ロン・ハワードの映画のなかでは一番好きだと言っていい。

この映画は80年代の日本のバブル期、日本の自動車産業が景気がよく、アメリカの自動車産業を圧迫していた時代、文化面での日米摩擦をとりあげた作品。当時の日本の自動車産業などは、日本の生産力は、企業トップの力ではなく、現場の人たちの忍耐強いロイヤリティから発生したものだ・・とよく言われていた。
GMなども、結局労働組合の力が強く、車一台あたりに、労働者に払う医療保険やそのたもろもろなどが膨大に含まれており、それらを足して車の販売価格にすると、とても販売価格では日本車には対抗できなかった。その結果、大型車ばかりを作るしかなく、燃費の良さや庶民性とはかけ離れたもの作りづづけ、その結果終に倒産してしまった。
そんなアメリカの個人主義をちょっと見直そうよ・・っていうささやかな自己批判が組み込まれた、良質のコメディ映画。日本文化の群衆的行動力描写はかなりあざといが、見終わったとは実に爽快になれるハート・ウォ-ミングな映画だ。

撮影はドン・ピーターマンエイドリアン・ライン『フラッシュダンス』や、ジョン・バダム『アメリカン・フライヤーズ』の撮影監督だ。この人の画面は透明感があり、じつにさわやかに美しい。他にも『スプラッシュ』『コクーン』『ハートブルー』などがある。

<あらすじ>
80年代のアメリカの田舎町。住民の雇用を支えていた自動車工場が閉鎖され、街は活気をうしなっていた。そんな街を救うべく、ハンク(マイケル・キートン)は、日本の自動車メーカー“アッサン自動車”の工場を地元に誘致するためにはるばる日本にやってきた。言語・文化の違う“異国”に悪戦苦闘しながら、アッサン自動車の本社ビルを探すが、その分室にたどりついてしまう。そこでは、幹部候補生への厳しい就業訓練がおこなわれていた。その中に高原カズヒロ(ゲディ・ワタナベ)もいた。
なんとか本社へ辿り着いたハンクを迎えたのは、無表情に顔を並べるアッサン自動車重役たちだった。ジョークを言っても反応はゼロ、そのなかでなんとか街のPRをするが、反応はゼロ。肩をおとして帰国するハンクであった。
誘致作戦は完全なる失敗と思っていた矢先、アッサン自動車の日本人社員らよこしてきた。町の人々はそんなアッサン自動車の社員たちを熱烈に歓迎する。そのなかには日本でみた高原カズヒロもいた。高原らの家族をのせた「圧惨自動車」のロゴのはいった自家用ジェット機が空港につくとそこにはレッド・カーペットがひかれていた。戸惑うカズヒロたちは、靴を脱いでそのカーペットの上をあるいていくと、現地の市長たちも、なんとか面子をたてるために靴を脱いで絨毯の上を歩いていき握手をする。

他にも、就業まえに会社幹部たちがみんなで寒中水泳したり、労働者全員でラジオ体操、役員たちの奥さんは家ではまるで『赤ひげ』にでてきそうな浴衣を着ていたり・・とか、まあ、ありえない日本文化描写は数知れず。・・・しかし、ここは眼をつぶろう!

アッサン自動車の幹部室へ訪れたハンクは、カズヒロからアメリカ人労働者の雇用責任者兼現場監督へ任命される。ハンクは突然の大抜擢に大喜びする。しかし、アメリカの個人主義と、日本の会社への忠誠心思想がぶつかり合い、会社幹部と地元労働者との関係は悪化するばかり。最終的に、日本での一月の生産台数記録1万5千台を製造すれば、以前と同じだけの賃金を払う、しかしそれ以下なら昇給はなし・・という条件で話をつける、ハンクとカズヒロ。
その話を労働組合の会合でするハンクだが、月産1万3千台の彼らにはその数字は重すぎた。1万4千台でも少しは昇給はあるんだろう・・の問いに「うん」と言ってしまうハンク。しかし、「1万5千台以下なら昇給はなし」という事実が労働者にばれてしまう。それを知った地元労働者たちはストに入り、それに対抗して会社側はこの街からの撤退をきめてしまった。独立記念日の祭りの日、「この街を殺した男」として壇上に上げられたハンクは
「みんなが聞きたいのは『我々が世界で一番だ!』ってことだろう」と聞く。
「おおおおおおおおお!」と沸くみんな。
「でも、今、我々は圧されてる。我々の持っているガッツは世界一だと思っていた。でも彼らも持っているんだ! 今、取り戻さないと我々はダメになる。彼らに1万5千台作れるなら、我々にも作れると思った・・・なのに俺は・・・」
そんなことだとは知らずに自分たちはストをし、せっかく誘致した工場を撤退させてしまったのか・・と絶望し、立ち去っていく街の人たち。ハンクの車には馬のクソが詰め込まれて帰れない。そんなハンクに「あなたのスピーチは立派だったわ」となぐさめるオードリー(ミミ・ロジャース)。早朝、同じように絶望と後悔を感じているカズヒロを眼にする。

そしてハンクとカズヒロは工場にあらわれる。周りには仕事を放棄した労働者たちがたむろしていた。
「なにをする気だ?」
「あと1日ある。これから二人で1千台作るんだ」
そんなふたりを怪訝そうに見送る労働者たちだが、4時間をかけて二人は車を一台つくりあげてしまう。
「何時間かかった? 15分か?」
「4時間だ」
「ふん、あと999台か、さ、次だ!次!」
それをみている労働者たちも心を揺さぶられはじめる。
「あいつら何してるんだ?」 「ああやってれば、俺たちが仕事するかもっておもってるんじゃないのか?」 「なんのために・・?」 「・・・・彼らは、町を救おうとしているんだ」
みんなが工場に流れ込んでくる。財務整理をしていた日本人幹部たちも現場にでてくる。禁止されていた音楽も流れてくる。地元の労働者も、日本人の幹部たちも、みんなが怒涛の勢いで車をつくりはじめる。
「あと20時間もある。たかが999台、その気になりゃあ作れるさ!」


だああああああああああああああ!!!!である。このノリノリ生産力の爆発は実にきもちがいい。
まるでアニメ業界の作品納品まえの最後の1日を見ているようである。リテークあと〇〇カット、あと1日ありりゃ直せるさ!・・みたいな。

異文化交流モノはスピルバーグの『未知との遭遇』もいいだろう。下に紹介した『迷子の警察音楽隊』もいい。しかしこの『ガン・ホー』それ以上の感動をあたえてくれる。
・・・どんなに世間がけなそうとも、私の中では大傑作である!!

by ssm2438 | 2009-12-11 04:43


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