西澤 晋 の 映画日記

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2010年 02月 27日

眠狂四郎 円月斬り(1964) ☆☆

眠狂四郎 円月斬り(1964) ☆☆_f0009381_12175951.jpg監督:安田公義
原作:柴田錬三郎
脚本:星川清司
撮影:牧浦地志
音楽:斎藤一郎

出演:
市川雷蔵 (眠狂四郎)
成田純一郎 (片桐高之)
東京子 (小波)
丸井太郎 (十太)

        *        *        *

『眠狂四郎』は60年代に愛された赤毛の剣士である。クールにして非情、無欲にして残酷。『ゴルゴ13』から殺しの以来という能動的に作業部分を除けば、ほぼ眠狂四郎になるのではないだろうか。原作は「週刊新潮」に連載された柴田錬三郎の同名小説。

時は、無類の色好みで50人もの子をなしたと言われる11代将軍・家斉の治下。世に背を向けて孤独の中に生き、不敗の秘剣・円月殺法を振るう眠狂四郎は、転びバテレンのイルマンが黒ミサで大目付の娘をはらませ、その結果生まれたという出生の秘密があった。つまりハーフである。ゆえに江戸時代にはめずらしい赤毛でありすらりと背が高く、どこか日本人離れした妖艶さがある。そういえば『ゴルゴ13』のデューク・東郷もがロシア人の血が入った1/4入っているらしい。

『眠狂四郎』は確かにキャラクターとしては人をひきつけるある種の毒はもっているのだが、いかんせん本人の目的意識はないので、その辺がドラマとして弱い。本人が目的意識を持たないということは、巻き込まれ型のドラマにしかならないからだ。これが『ゴルゴ13』みたいに、人殺しの依頼なんぞを請け負っていたらもうすこしメリハリのついたドラマになっていたのではないかと思った。
さらに、狂四郎はけっこう女を犯すのだが、画としてそれほどのアピールがあらうわけではない。これが『御用牙』みたいなサービスエッチシーンでもあれば少しは見る気がするのだろうが、今の若い人たちが見たいとおもう映画ではないだろう。

家斉は、天明6年(1786年)家治(50歳)の急死を受け、天明7年(1787年)に15歳で第11代将軍に就任した。しかしまだ若すぎたため実質的に実権を行使したのは老中の松平定信であった。この時代は先の)家治の時代に老中だった田沼意知の文化がまだ反映している。
田沼意知は、それまでの農業依存体質を改め、重商主義政策を実行に移した。商品生産・流通を掌握し、物価を引き下げるため手工業者の仲間組織を株仲間として公認、奨励して、そこに運上・冥加などを課税した。町人資本による印旛沼・手賀沼の干拓事業、さらに長崎貿易を推奨し、特に俵物など輸出商品の開発を通じて金銀の流出を抑えようとした。また、蘭学を奨励し、工藤平助らの提案によって最上徳内を蝦夷地に派遣し、新田開発や鉱山開発、さらにアイヌを通じた対ロシア交易の可能性を調査させた。商業に重点をおいた重商主義で町人の文化は急激に発達、初期資本主義が構築された。しかしその反面賄賂が横行、政治腐敗が横行していた。
賄賂により政治腐敗さへなければ、この時代は文化的にはとても歓迎された時代だったのだと思う。

これを改めるために松平定信が老中になった行ったのが寛政の改革。松平定信は政治の健全性を優先し、都市部に出てきた農民を帰国させ、引き締め財政をめざした。しかしこれは経済政策としては失敗作であり、せっかく田沼意次時代に健全化した経済がだめになった。しかも、緊縮財政で政治腐敗を取り除こうとしたが、これもほとんど機能しなかった。正論だけを語った政治家だったとしかいえないので、私としては評判わるくとも田沼意次のほうが正しかったと思う。
本編でも、都市部に出てきた農民がたむろする橋の袂に集まった仮設集落でおきる殺人事件から物語が発展する。時代背景はさりげなくフォローされているのだなあっと関心した。

こんな時代を舞台にしたドラマも意外と多い。『鬼平犯科帳』も松平定信時代(家斉前期)のドラマである。『大岡越前』はこの前の時代であり『遠山の金さん』はこのあとの時代になる。昔NHKでやった『天下御免』は田沼意次時代の平賀源内を主役したテレビドラマだった。


<あらすじ>
将軍家斉の庶子の一人片桐高之(成田純一郎)は、川原で飢饉で地方から避難して来た百姓の老人相手に新刀の試斬りを行った。それを目撃した狂四郎(市川雷蔵)は高之の使いの女小波(東京子)に案内されて川舟へ呼び出され、仕官にすると勧誘される。さらに高之は狂四郎の愛刀無想正宗に興味を持ち、譲って欲しいと言う。話を断った狂四郎は、高之側近の剣客戸田と居合いの勝負を挑まれ、相手の右腕を斬り落した。高之は「その名刀夢想正宗、必ず手に入れる」と言い、狂四郎は「覚えておこう」と答えて去った。
一方父親を高之に殺された農民の太十(丸井太郎)は高之への仕返しをたくらみ、高之の言い名づけである小波を誘拐しようと試みる。しかし失敗、まだ幼女のその妹を連れてきてしまった。狂四郎はその妹は返しに小波を犯してしまう。怒る高之は川原の難民たちの掘っ立て小屋を襲いこれを馬で引き倒し、十太を捕まえ、手打ちにしようするが、狂四郎が現れ、自分の身と愛刀無想正宗と引き換えに十太を許すことを進言、狂四郎は囚われの身となる。
牢のなかの狂四郎をヤリで殺そうとする高之の母松女だが、これお人質にとった狂四郎は牢から脱出、寝技ですんで心を奪われていた小波が無想正宗を奪い返してくれる。
高之に先の川原で最終決戦を挑む狂四郎は、これを切り倒し終劇となる。

by ssm2438 | 2010-02-27 12:20


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