2011年 03月 20日
監督:山田洋次 脚本:山田洋次/朝間義隆 撮影:高羽哲夫 音楽:山本直純 出演: 渥美清 (車寅次郎) 音無美紀子 (倉富光枝) 岸本加世子 (小田島愛子) 地井武男 (小田島健吉) 小沢昭一 (倉富常三郎) * * * もっと良いものにまとめられたのに・・・ 今回はダブルマドンナでお話が展開、しかしそれが項を奏していないのが問題。これ、岸本加世子側のストーリーを排除して、すべて音無美紀子の話にすればけっこう良いものが出来上がったんじゃないかと思うのだけど。 <岸本加世子の話> 九州を旅する寅次郎は家出娘の愛子と知り合う。なにか訳ありなのだろうが、寅の仕事の“サクラ”をこなしたり、寅次郎が食事をしてると露店をみててくれたりと、なにかと元気をくれる女の子である。やがて寅次郎が東京に帰ると、寅次郎をおって愛子も《とらや》にやってくる。店の仕事をかいがいしく手伝い、おいちゃん、おばちゃんも大喜び。しかし、いつまでも家出娘を《とらや》においておくわけにも行かず、どうしたものかと考えている時に愛子の兄・健吉が襲来、愛子を連れて帰るという。マグロ船乗組員の兄はほとんど家にいることはなく、愛子は不仲の母親と一緒にいる時間がつらかったという。感情を出すだけ出した愛子は兄と一緒に帰っていったとさ・・。 そんな愛子と一緒に露店を出している時に、声をかけてきたのが光枝(音無美紀子)。彼女は同じ的屋仲間・倉富常三郎(小沢昭一)の妻だった。 <音無美紀子の話> 「寅さんでしょ、主人から聞いてます」と話す光枝は、昔のテキ屋仲間、倉富常三郎の女房だった。しかし病気になり、亭主に代って仕事に出ているという。翌日常三郎を見舞いに行った寅次郎は、「俺が死んだら、あいつを女房にしてやってくれ」と常三郎から冗談めかしに遺言を残される。 「わかったよ」と受けてしまう寅次郎。 常三郎の家をあとにする寅次郎を光枝が見送りにきてくれる。そして、実はもう彼は長くないのだという。医者もあきらめて、最期は住み慣れた自分のうちでということで退院をゆるされたのだと。寅さんが主人を見舞ってくれた最期のお友達になるかもと言って家のほうへもどっていく光枝の後姿が切ない。 東京にもどった寅次郎は、《とらや》のめんめんに結婚するかも・・ともらす。 それから1ヶ月して常三郎は死に、光枝は上京して旅館で女中をしていると言う。光枝の働く旅館をたずねると、寅次郎は光枝から常三郎の形見の財布をわたされる。このころから寅次郎は就職も考えているようになる。あっちこっちの就職案内に連絡をいれてたり、面接にも行きはじめる。 東京に戻ってきて、一人こころ細はたらく光枝に、寅次郎の存在は心のよりどころだった。このさりげないかもし出す雰囲気で光枝の想いを想像することは出来る。のちのち明かさせるのだが、すでにこの時、「俺が死んだら寅次郎と一緒になれ」という遺言を聞かされており、「そのことは寅次郎も承知してくれた」とも伝えられている状態。なので、この時に光枝には、ホントに期待できるのか? 期待して裏切られるのが怖い。落ちるかどうかわからない釣り橋をわたっているような緊張感と、でも寅さんといる時間が一番やすらぐ・・などの複雑な感情が入り混じっている。 このへんの感情のかもし出し方は山田洋次、さすがである。 一方、《とらや》の面々は、はたして寅次郎をやとってくれる就職口があるのだろうかと心配になる。そんな気遣いをよそに光枝を《とらや》にまねく寅次郎。休日の楽しいひと時をすごしたあと光枝を駅まで送っていく寅次郎。そこで恐る恐る寅次郎の真意を確かめようとする光枝。 「死ぬ前に、亭主からへんなこと言われなかった」みたいな、ジャブから徐々に確信に入っていく会話術はやっぱり上手い。お互いどう対応して良いのか分らない。一番最悪の状態になったとしても、心が耐えられるようにフェイルセイフをしっかりかけて本音の探りあい。 「亭主の言葉を負担に思っているなら、安心して下さい。 私は気にしてないから。そんな犬や猫をあげるみたいに言われても・・・。 寅さんはやさしいからそう応えてあげただけで、真剣に考えていたわけではないでしょ・・・」 お互いフェイルセイフの解除ができないまま、本心とは反対に結果におちつかせてしまう二人が切ない。あの時、寅次郎に10作目でみせた八千草薫の勇気があれば・・・とどれだけ思ったことか。八千草薫は、同じようなシチュエーションで寅次郎に「冗談だろ?」といわれてなおかつ「本気よ」と返している。 まるで、友達と遊びで将棋をやっていて、その終盤で、「こうやってああやったらいいんじゃないか」とポロっと口をはさまれ、それがとってもいい手なのに、他人に言われたから指したくない・・みたいな。しかし恋愛ってのは、そんなカッコやイデオロギーはどうでもよくって、結果をむしりとらなければいけないものなのだから。 そのことについて語るには光枝は相当な勇気を必要としたに違いない。その勇気が見えるなら、寅次郎はそこで「いいえ、本気でした」と言うべきだ。これが言えない寅次郎はホントにただのチキン野郎です。 そのあと《とらや》に帰り、荷物をまとめて旅にでる寅次郎。もうこれは、フラれたからではない。自分がチキンであることを認識してどうしょうもなくて旅に出るのである。そこに就職口からの合否の結果が届けられる。 今となってもはもうどうでもいいことだが、そこだけは寅次郎も受かると思っていた就職先だった。しかしその結果は採用不可。カタギの人間として何処にも採用してもらえない寅次郎は再び旅に出て行く。 おばちゃんが泣きながらぽそとつぶやく「哀れだねえ」が、ホントに哀れなので止め処もなく悲しくなってきてしまう。 で、振り出しに戻るのだが、 岸本加世子の話などおいといて、真剣にカタギになろうとする寅次郎を描けなかったものかとかなり不満がのこる。のちに満つをの就職活動を描写したように、行く先々でことごとく落とされ、どんどんどんどん自信をなくしていく寅次郎。それでも光枝と所帯を持つならそれなりの稼ぎくらいはと思い傷つけられるプライドに鞭打ってたちむかう就職試験。ことごとく落とされるなかで、ひとつだけ好感触のところあり。しかしふたをあけてみると・・・・、 みたいな話を要れて欲しかったな。 この映画においては、現実の社会で徹底的に人格否定される寅次郎をみてみたかった。・・というか、それはどこかできちんと語るべきことで、それをやれるのはこの話が最適だったのに・・・。
by ssm2438
| 2011-03-20 12:52
| 男はつらいよ(1969)
|
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主観重視で映画の感想を書いてます。ネタバレまったく考慮してません。☆の数はあくまで私個人の好みでかなり偏ってます。エンタメ系はポイント低いです。☆☆=普通の出来だと思ってください。 by ssm2438 リンク
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