西澤 晋 の 映画日記

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2011年 03月 15日

男はつらいよ33/夜霧にむせぶ寅次郎/中原理恵(1984) ☆☆

男はつらいよ33/夜霧にむせぶ寅次郎/中原理恵(1984) ☆☆_f0009381_8571254.jpg監督:山田洋次
脚本:山田洋次/朝間義隆
撮影:高羽哲夫
音楽:山本直純

出演:
渥美清 (車寅次郎)
中原理恵 (木暮風子)
渡瀬恒彦 (トニー)
佐藤B作 (福田栄作)
美保純 (桂あけみ)

       *        *        *

絵はいいぞ! 
ミケランジェロ・アントニオーニの『さすらい』みたい。

そして大発見!
(これは一番最後に記述)

『男はつらいよ』史上、もっとも画面的にかっこいい映画はこれでしょう。舞台になっているのは北海道の霧多布湿原。だだっぴろい釧路の大地と、タイトルにもあるようにとにかく霧の描写が素敵。そしてその霧のなかで描かれる恋愛模様もとてもアダルト。
ただ、残念なことに、最後の熊騒動のエピソードはそれまでの気持ちよさを全部ぶち壊しにしてしまう寅さん史上最低の演出であり、最高と最低が交錯して、でも最後のシーンの最低印象が非常に強く、かなり損をしている作品です。

話が全部がひと段落して、今回のマドンナの風子の披露宴会場に寅次郎が来るというエピソード。場所は北海道。一山こえればすぐなんだけど、バスでまわると4時間くらいかかってしまう。なので寅次郎は山をこえることにしたらしい。ところがここのところ熊が出るというのでみんなちょっと心配。で、山からおりてきた寅次郎の後ろに熊のぬいぐるみをきた人がいて、おおさわぎ。でも、あれが熊のつもりでやっているらしいので、どこまで本気にして解釈すれば良いのかまったくわからず、ただただおばかなアトラクションになってしまったというエピローグ。
作り手の気持ちとしては、『奮闘編』の最後のと同じで、「寅さんが死んじゃったのかもしれない・・」って一瞬思わせといて、みなさんに寅次郎の存在を大事におもってる自分発見!というよくある演出手法なのだけど、完全にギャグになってしまったのですべりまくり。この映画はかなりムードをアダルトに振っているだけに、あれが最後のエピソードがそれまでのムードをぶち壊しにしてしまった。
編集でカットできなかったものかと悲しくなってしまった。

しかーし、しかし、その最後のところは最低なれど、それだけのこの映画をダメと決め付けるには捨てがたい魅力がこの物語にはあります。

寅次郎が釧路で知り合った、福田栄作(佐藤B作)というサラリーマン。実は1年前に妻に逃げられて不憫な生活を送っていたが、このたびその妻の居所がわかり、連れ戻しに釧路まできたという。寅次郎にプッシュされながら勇気をふりしぼってその妻がいるという家までいってみると、他の男と子供までつくって幸せそうにくらしている。栄作はそのまま黙って帰ることにする。
これは#43『寅次郎の休日』で後藤久美子演じる泉ちゃんが、女の人とくらしているというお父さんに会いにいって、あまりにも自然にくらしている二人をみて、「戻って欲しい」といえなくなってそのまま返っていく・・というエピソードと同じパターン。
パターンなのが分っていてもぐぐっと来るものがある。

そして、今回のマドンナ木暮風子(中原理恵)との恋愛劇もちょっと大人の世界。釧路で知り合った風子は理容師の免状を持っていて、床屋に勤めるのだがどこでも長続きしない。伯母の住む根室へもどった風子は、寅次郎について出かけていった常盤公園の祭りの会場でオートバイショウの花形スター・トニー(渡瀬恒彦)にさりげなくアプローチされる。寅次郎とそのまま旅をしたいという風子だが、寅次郎はカタギな生活をしろよとさとす。やがて根室の散髪屋で職についた風子をあとに寅次郎は東京にもどっていく。

柴又にもどった寅次郎は福田栄作の訪問をうける。彼は東京で風子に会い、借金を申し込まれ断ったという。金がなくてお金を貸せなかったという栄作を罵倒し追い返してしまう寅次郎。風子が東京にいるが何処にいるかもわからない。しかもお金に困っているらしい。心配で仕方がない寅次郎は新聞の尋ね人欄に広告を出す。そんなとき、トニーが《とらや》を尋ねてくる。風子がトニーの所で寝込んでいるというのだ。旭印刷の車を借りて風子を引き取りに行く寅次郎。近所の散髪屋に理容師の求人があるとかで、風子がそこで働けないかと段取る《とらや》の人々。そんななか、寅次郎はトニーの所に会いにいき「風子から手をひいちゃくれねーか」と話にいく。
「女の子とで人に指図なんかされたかないな」というトニー。
「オレもお前の渡世人どおし、分るだろう、あの娘は無理しちゃいるがカタギになれる娘だ」と続ける寅次郎。
「東京についてくるっていったのはあの娘のほうなんですよ」というトニー。
「だからこうして頭をさげて頼んでいるじゃないか」といって頭をさげる寅次郎。
「あんた、純情なんだな」といって去っていくトニー。

《とらや》に帰ってそのことを話す寅次郎だが風子は
「私とトニーのことでしょ、なんで頼まれもしないのにそんなことするの!」激怒。
「話あったってしょうがねーじゃねえか、あんな遊び人と」と寅次郎。
「遊び人だったら寅さんだってそうでしょ、渡世人同士だって今自分でいったじゃないか!」と勢いで返す風子だが、言った後に悪かったと思う風子。

風子は風子なりにトニーのことを愛していたのである。
一緒にいて幸せにならないと分っていても、どうしようもない恋愛というのもある。

「さよなら」と頭をさげて雨の中に飛び出していく風子。
あとにはいや~~~な沈黙が残る。

その後、二人がどうなったかは描かれていないが、風子が別の男と結婚するということから推測すると、きっとトニーも寅次郎の言葉をうけとり、寄り付いてきた風子を突き放したのだろう。見えないところで大人のやり取りが展開しているお話でした。


・・・・・で、最後はコメディのぶち壊し演出。そこまでが良かっただけに最後はほんと残念で仕方がない。

ちなみにこの作品からタコ社長の娘・あけみ(美保純)が登場。いきなり結婚式である。で、ささやかにほろっとさせてくれる。いやあああ、美保純はほんとにいいキャラクターだね。この人の存在はこの映画においてとても貴重な存在となる。40作目になると美保純がでなくなると、なんだかとても寂しいのである。


と、ここまで書いておいて、一つとんでもないことに気付いた。
いろいろ違和感があるこの話、じつはリリーさんの話ではなかったのか?

これ、もとのシナリオはリリーさんの4本目になるべき話だったのだけど、なんらかの理由で浅丘ルリ子がでられなくなり、しかたなくシナリオを改編したのではあるまいか?
この話、リリーさんだと思ってみると、なんだか納得できる台詞がいっぱいあるんだ。たとえば土手から満男のブラスバンドの練習風景みながらさくらが指差して「ほら、あれが満男よ」って言うシーンとか。風子さんではあれなにか不自然だ。でもリリーさんに置き換えるとその台詞がしっくりくる。
結局最後の話になった『男はつらいよ・紅の華』のなかで「二度も三度もも結婚したり」っていう台詞もきになってたんだ。2度はわかるけど、3度はないだろう。言葉のリズムでそういうかもしれないが……と思ってはみたが、山田洋次のなかでこの話がリリーさんの話だとしたら、山田洋次のなかではリリーさんは実は三度結婚したてたって設定になってるのかも……とか。

というわけで、興味ある人は今一度みてください。このキャラがリリーさんだとおもって。




by ssm2438 | 2011-03-15 12:30 | 男はつらいよ(1969)


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