西澤 晋 の 映画日記

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2012年 06月 27日

兄貴の恋人(1968) ☆☆☆☆

兄貴の恋人(1968) ☆☆☆☆_f0009381_1203589.jpg監督:森谷司郎
脚本:井手俊郎
撮影:斎藤孝雄
音楽:佐藤勝

出演:
加山雄三 (北川鉄平)
内藤洋子 (北川節子)
酒井和歌子 (野村和子)
白川由美 (バーのママ・玲子)
岡田可愛 (小畑久美)
中山麻理 (中井緑)
ロミ山田 (ピアノの先生・藍子)

     ×   ×   ×

でこすけ! でこすけ!でこすけ!

いやあああああああ燃えました。すげええええええ面白い。いちいち提供されるシーンが燃える。いままでこんなに愉しんで日本の恋愛映画をみたことがない。増村保造『くちづけ』も相等面白いとおもったが、久々にそれ以上にわくわく、にやにやして映画を見られた。感動しまた。すばらしいです!! 大傑作です。

お話は、各方面のお姉ーちゃんから愛される加山雄三が、結局一番平凡そうな酒井和歌子を選ぶという、まあ、ある意味シンデレラストーリーの王道なのですが、いやいやいやいや、これがなかなかどうして大傑作なのである。
最初は、総てにおいて感情移入に乏しい主人公に、もうちょっとなんとかならんのかって思ってたのですが、とにかく彼を取り巻く女性陣がみなさん素敵。酒井和歌子の薄幸そうな可憐さが図抜けてますが、内藤洋子の直線的な愛情表現もすばらしいです。あとバーのママさんの白川由美さん。みんながみんな良い味だしてます。

監督は『日本沈没』『復活の日』『八甲田山』『海峡』森谷司郎。フィルムのテイストの趣味があうのか基本的に好きな監督さんなのですが、若い頃の青春モノはじつはこれが初めて。以前から「良い」とは聞いていたのですが、どちらかというと社会性のあるものを撮ってもらったほうよいかなと思ってたので、青春モノ系は食わず嫌いしておりました。
映画的な趣味が近いのでしょうね、どんなにハズレな映画でもみてて気持ちがよいのです。『海峡』なんてはっきりいってかなりシナリオ段階でぼろぼろで、出来上がった映画もかっこつけたけど空回りしてるような部分があるのですが、この人の描きたいものがなにか趣味が合うのです。ダメなんだけど好きなのです。
この映画は、主人公のそっけなさ以外は総て素晴らしいです!!!! 加山雄三が「結婚してくれ」って言う時に内藤洋子のピアノを弾いているシーンをOLするのはちょっとハズした感があったけど、それ以外はすばらしいです。あと唐突にレズシーンが入るのも「ええ、なにこのチェンジ・オブ・ペースは!?」と思っちゃいましたが、それ以外はすばらしいです。

その面白い物語を撮っているのが斎藤孝雄。いわずと知れた黒澤組の撮影監督さんです。なのでもちろん望遠でがしがし撮ってくれます。でも、『乱』とかのような仰々しいものじゃなくって、都会の中の望遠の風景画また素晴らしいのです。なにからなにまで素晴らしい画面です。
国鉄の中央線がオレンジで、山手線が黄緑です! またこれを望遠で撮ってくれるから嬉しくなります。
内藤洋子のバックにはいってくる船のカットは傑作です。すばらしい!!! この人のカメラがあったからこその、この映画はこれだけの傑作になったのでしょう。正直なところ、黒澤明作品の作品でこの人が撮影監督やったものは、実はそれほどときめいてなかったのです。どっか押し付けがましいいやらしさがあって、参考画面にはなるのですが、好きになれなかった。ところが、森谷司郎の監督作品での斉藤さんのカメラはすばらしい。どの画面も燃えます!

ヒロインの酒井和歌子さんがまた可憐でいいんだ。兄貴はチンピラで、なにかと親に金をせびりにくる。母はかなりくたびれモードで、重病人というわけではないが、世話しなければいけない・・という雰囲気をもっている。うちは貧乏そうで、6畳くらいのアパートに2人で住んでいる。物語の初めに、主人公のいる銀座の会社を辞めるのだけど、その後は叔父のやってる川崎のパブで働いている。実に不幸な状況を甘んじて受けて絶えてる可憐なヒロインなのです。

そしてもう一人のヒロインが、加山雄三の妹役の内藤洋子。『赤ひげ』の最後で結婚することになった彼女です。兄のことが好きで、兄に必要とされてる状況が至福の時・・みたいな女の子。兄にお見合いの話がもちあがると、なにかと相手に人に難癖つけてる姿が可愛い。お見合いの日にはピアノのレッスンにも気持ちがはいらない。

物語の構造はしっかりしているのも見易い。刺激ポイントが分かりきってるのがとても素敵。
加山雄三にしてみれば、妹は可愛いけれど、所詮は妹。でも、その妹に彼氏が出来るかもしれないとうシチュエーションにはやや気分がよろしくない。
加山雄三の本命になるのが酒井和歌子で、お互い両想いなのだけど、酒井和歌子は家庭環境に劣等感を感じていて加山雄三のプロポーズを受けえられない。さらに、自分のことをずっと大事に思っていてくれている同じアパートに住む男もいる。見ているわれわれからすると気が気ではない。
このまだ現実には起こっていないが、起こりそうで「気が気ではない」シチュエーションの挟みかたが非常に物語を楽しくさせてくれるのである。

<あらすじ>
銀座の商社につとめる北川鉄平(加山雄三)は、両親と妹節子(内藤洋子)となに不自由なく普通にくらしているサラリーマン。しかし、やたらと某会社の娘さんからの縁談があるといううらやましい環境。しかし女子大生の節子は、鉄平に縁談がおきると、本人よりも目の色を変え、相手に散々ケチをつけまくる反面、兄の精神的な部分を世話している自負も持ち合わせている。以前会ったことのある鉄平の会社の女子社員の野村和子(酒井和歌子)が会社を辞めることになと、仕事を引き継ぐ小畑久美(岡田可愛)と鉄平と自分とで、ささやかなお別れ界などをセッティング、ちゃんとプレゼントも買わせる世話女房ぶり。しかし、鉄平はその時仕事仲間に麻雀をさそわれ、お別れ会をすっぽかしてしまう。
和子はひそかに鉄平のことを想っていたが、家庭環境に劣等感をもっており、自分はふさわしくないと思い込もうとしていた。和子が働いているパブに飲みに来た鉄平にも、自分のいる環境はあまり見られたくない様子。
そんなおり、取引会社の社長の娘・中井緑(中山麻理)との縁談が持ち上がる。結婚相手としては申し分のない相手であり、同時にアメリカ行きの話しももちあがる。しかし、緑との結婚のことを考えると和子のことが想われてならない鉄平は、その旨、緑に伝え、和子に結婚を申し込む。断られる鉄平。しかし彼女の働くパブを訪れ再び求婚するが、和子の兄のケンカに巻き込まれ入院するはめに。アメリカ行きもパーになってしまう。
やがてアメリカ行きの変わりに九州支社に転勤がきまる鉄平。
出発の日、節子は節子は和子に会いに行き、自分の心に対して素直な結論を出すように説得するのだった・・・。

最後の和子と節子の話の内容もなんか素敵なんだ。
相手のためを想って・・とかいう偽善的なものではなく、自分が納得したいからそう語っているところがいいんだ。
自分はいつか兄をあきらめなければならない時が来る。でも、そのとき育ちが良さげな相手だからという結婚ではなく、お互いが好きで結婚するのでなければ、自分が納得できない・・・。自分が納得したい・・・。そうしないと、兄も不幸になるし、私も不幸になる。
そんな、エゴが入ってるところがすっても素敵!

これを機に、森谷司郎初期作品漁りに励みたいと思います。

by ssm2438 | 2012-06-27 12:02


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