2009年 07月 15日
監督:ロバート・レッドフォード 脚本:アルヴィン・サージェント 撮影:ジョン・ベイリー 音楽:マーヴィン・ハムリッシュ 出演:ティモシー・ハットン ドナルド・サザーランド メアリー・タイラー・ムーア ジャド・ハーシュ エリザベス・マクガヴァン × × × 私の大好きな映画です。でも、なにを勘違いしてかアカデミー賞はとってますけど、 私の信頼するニューヨーク批評家賞もとってますので、ぜんぜんミーハー系ではないのです。 しかし、よくアカデミー賞とれたなあ(苦笑)。これを選んだやつらは偉いよ。 映画のジャンル分けにもいろいろありますけど、 もし<ベルイマンもの>というジャンルがあるとしたら、この『普通 の人々』はそれは入るでしょうね。 映画監督の巨匠といえばいろいろいますけど、北欧の巨匠といえばこの人イングマル・ベルイマンでしょう。 ニシザワの大好きな映画監督さんです。 メンタル描写にたけていて、メンタルスプラッタと言ってもいいそのグロさは天下一品。口のなかに手をつっこんで、内臓を内側からつかみ、ひっくり返して引き出したように出てくる出てくる人間の愛憎。かなり鑑賞力のある人でないと観られない映画です。 ベルイマンの映画では、もっとも愛すべき人なの憎しみの対象にもなってしまうものたちの愛憎劇、親と子、姉妹、妻と夫、といった人間関係の支配、非支配、独立、などがテーマになってます。すくなからず身近に想うことがありすぎて心が痛いんです。その痛みを受け止める事ができる人だけが観られる、見る人を選ぶ作品群です。 ロバート・レッドフォードの『普通 の人々』は、そのジャンルにはいると思うんだけど、でも、もっとクールに見易く仕上がってます。ベルイマンほどのグロさはないですね。でも、そのメンタル描写 はほんとに繊細で痛みがトクホンチールのように冷たく染込んでくるのです。 兄をボートの事故で失ったことで責任を感じて自殺未遂をおこしたコンラッド(ティモシー・ハットン)、やがて退院して普段の生活にもどってはいるがどうにもさえない。そんなコンラッドがまわりからの勧めでサラピストに行く。なかなかそのビルにはいりづらくてしばら道のむこうからそのビルをながめてる。なんとか意を決してビルはいってエレベーターのむかうと、おりてきたエレベーターのなかから男の人がでてくる。妙に意識してしまうコンラッド。入れ違いでエレベーターのなかに入り、落ち着き払ってすっくとたっているが、ドアは開いたままで、ちょっとあわてて<閉>のボタンを押す。エレベーターが上昇するあいだ、「ハーイ、ハウアユー」とかひとりでぼそぼそ言いながらこれから起きるファースコンタクトのシーンをシュミレートしてみたりする。落ち着き払った様子ドアベルをおしてまってると、後ろのドアがあき「あ、こっちからだ」って見事に出ばなをくじかれる。なかに入ると適当にちらかってて、普通におちつける空間、カウンセラーのバーガーがレコードプレーヤーの配線をいじくってBGM用のクラシックのレコードに針をおとしてコンラッドをイスにむかわせると、いきなりボリュームいっぱいの音。ビクンとするコンラッド。 不安が一杯のときのあの感じが実によく描けてて、それだけで十分すぎる程感情移入してしまう。 この映画にはほとんどBGMはなく、こういう繊細で丹念な感情表現のつみかさねの映画なんですね。 ほんと、すごいです。いまの映像世界にBGMなしで画面 をもたせてしまえ監督さんが何人いるんだろうかって思ってしまいます。 物語は、虚栄心の権化的な母親と、つねに批判されない役所を演じてしまう父親という、実にどこに在りそうな状況において、 自分のなかにある消せない過去の過ちにたえられない息子のコンラッドが、徐々に回復していくことをめざし、それを成し遂げて行くさまをクールに描いていきます。 <成し遂げモノ>の大好きなニシザワにとっては、「なんかの大会で優勝するんだ!!」っていうスポ根的なものも好きなのですが、この映画みたいに「暗い自分はイヤだ。明るい自分になりたいだ!!」っていう、もっとも根源的な目標をかかげてそれを成し遂げて行くさまを描いてしまったこの作品、地味だけど、めちゃめちゃすごい作品だと思ってます。 役者時代にはそれほど魅力を感じなかったロバート・レッドフォード、 監督としての仕事はほんとにいいですね~~。 彼のその後の監督作品はすべて劇場でみてますけど、どれも素晴らしいです。 基本的には「癒し」が彼の全ての根源にあるように思えます。 ロバート・レッドフォードの監督作品は 『普通の人々』 『ミラグロ』 『リバー・ランズ・スルー・イット』 『クイズショウ』 『モンタナの風に抱かれて』 『バガー・ヴァンスの伝説』 どれも、最高級に洗練された穏やかなじつにいい映画です。 ただ誤解のないようにもうひとこと描いておきますが、 <ベルイマンもの>とかぶっているのは『普通 の人々』くらいで、 あとは<ロバート・レッドフォードもの>といっていいかと思います。 『クイズショウ』はちょっとニュアンスがちがいますけど、他は基本的にはハートフルな<癒しもの>だと思います。 『普通の人々』だけがクールな<癒しもの>になりそうですね。 もうひとつ、 本家以外のベルイマンものといえばウディ・アレンの『インテリア』☆☆☆☆☆。 これも大好きな映画です。 ウディ・アレンとえばコメディ系だとおもわれてますけど、シリアスとらせても実に上手い。 ウディ・アレン自身が、けっこういろんな作品のなかで言っているのですが、彼は実はベルイマンの大ファンらしく、 どうしてもいちどベルイマンをしてみたかったのでしょう。でやってしまったのが『インテリア』、 たしかにマネっこと言ってしまえばそれまでなのですが、でも、これも本家ベルイマンの勝るとも劣らないクールなメンタル映画です。 やはり『普通の人々』同様、ベルイマンほどのグロさはないのでとっても見易いです。 ついでに、本家ベルイマンの中で、じつにらしい作品も紹介しときます。 『もだえ』 『野いちご』 『沈黙』 『仮面/ペルソナ』 『秋のソナタ』 『ある結婚の風景』 『叫びとささやき』 『ファニーとアレクサンデル』。‥‥ ほかにも、ベルイマンの作品の中で有名なものは『処女の泉』とか『第七の封印』『冬の光』『鏡の中に在るごとく』とかあるけど、そんなにいいとはおもわんかったなあ。 ベルイマンのなかでは『沈黙』☆☆☆☆☆、 レッドフォードの中では『普通 の人々』、 ウディ・アレンのなかでは『インテリア』が一番すきですね。
by ssm2438
| 2009-07-15 21:13
| R・レッドフォード(1936)
|
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主観重視で映画の感想を書いてます。ネタバレまったく考慮してません。☆の数はあくまで私個人の好みでかなり偏ってます。エンタメ系はポイント低いです。☆☆=普通の出来だと思ってください。 by ssm2438 リンク
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