2009年 01月 27日
監督:ロバート・レッドフォード 脚本:マシュー・マイケル・カーナハン 撮影:フィリップ・ルースロ 音楽:マーク・アイシャム 出演:ロバート・レッドフォード メリル・ストリープ トム・クルーズ マイケル・ペーニャ デレク・ルーク × × × 久しぶりのロバート・レッドフォード監督作品なのでメンタル自己啓発映画以外にはなりえないはずなのに、このタイトルはなんだ???って見る前は思ったのだが、実に的外れなタイトルだ。あまりに的外れなので今回だけはさすがにこのタイトルをつけたアホどもを呪ってやりたい。 ちなみに原題は『羊たちのためのライオン』。 レッドフォードの映画がどれも愛に満ちてるんだけど、今回のも凄く愛に満ちている。こんな優しいまなざし見られたらそらがんばっちゃおうかなって勘違いに一つもしてみたく成る。そんな映画。 西澤用語で愛とは期待することである。ある特定のスポーツ選手が好きっていうのは、その選手になぜか特別に期待してしまうことだ。自分の子供を愛していると思うのは、実は自分の子供の一番期待している自分がいるからだ。プリーストの言葉ではなく、私の実感的言葉では「愛する」というのは「期待する」ということなのだ。そして人は期待されないと腐ってしまう生きものなのだ。「期待されるのがいや」といいながらそんな人ほどもっとも期待されたがっているのである。 この映画は、レッドフォードがまだ記号かされてない人たちに期待しているのである。 そのあたたかなまなざしがとてもやさしい。 物語は人間原理によって語られている。ここでいう人間とはまだ記号化されてない人たちの事であり、その行動原理のことだ。例えばこんな構図。 主人公は、Aさんという劣等感を感じる女の子に憧れながらも、現実ではBさんという居心地のいい劣等感を感じない女の子と一緒にいる。でもいつも想像しているのはAさんのこと。しかしもしAさんを求めて拒まれたら全ての夢が崩壊してしまう。おそろしくて夢にいどめない。ほとんどの場合はそれを実行出来る勇気を持ち合わせてる人はいない。夢に憧れながら、現実と一緒に居る、それが人間原理なのだ。それが普通の人々なのだ。 一方で、在る種のひとは本命のAさんに挑める勇気をもっている。偶然なのか、努力した結果なのか、とりあえず持っているのである。本命に挑むには圧倒的な努力と決意が必要なのだ。そしてそれに挑む為にはそれを失ったときの絶望感を打ち負かすだけの実行力とそれでもそこに挑む勇気を持っている。 普通の人々はそういう人種に憧れる。そうなりたいと思う。何事も努力と根性でなしとげられると信じる事が出来る、そんな人間になりたいと思う。出来ないのならせめてその振りが出来ればと思う。実際そのふりが出来るだけでもかなりの勇気と努力が必要なのだ。 しかしそうなったら最後、その人は社会のなかでは記号になってしまうのだ。二者選択で答えをだせる人たち。白か黒か。グレーがない人たち。結果を出す人というのはこういう人たちなのだ。いったん答えをだしてしまった彼らは突き進むしかない。そして彼らの哲学と心中するしかないのだ。 アフガンの山のなかで玉砕した二人はかっこよく描かれているが、たぶんレドフォード自身は肯定的ではないはずだ。 これは作品中からは読みとれない部分かもしれないが、レッドフォードの政治的なスタンスっていったらどうしてもアンチ・リパブリカン(アンチ共和党)だろうから、あのふたりのヒロイックさをまっこうから肯定することはない。ここを肯定してると見ると、たぶんこの映画のポイントが判らなく成ってくるのだろう。 レッドフォードが擁護したいのは、「自分はこうなんだ!!」って決め込めない人間性。 アメリカンドリームが肯定しているのあ、「自分はこうあるべきだ!」って在る種のビジョンに自分をはめこんで、そのキャラクターになりきっていくことで成長していくものだけど、感情をおしころして自分の覚悟・意思決定を優先する生き方を、多分真っ向から否定はしないけど、それがほんとに正しいのかい?って問うてる感じ。 これが許せるレッドフォードってのはかなりの人格者だなあっておもってしまう。 私にはむりだ。 私は小さい頃は、好きな物が好きと言えなくて、つねに自分をごまかしてた。ほんとは欲しくてたまらないのに、そんな自分を押し殺してた。それは、理性からの行為じゃなくて、求めて与えられなかった時、手に入らなかった時に襲ってくるであろう絶望感の恐ろしさからの逃避。 そんな自分が徹底的に嫌いで、その結果今の自分を構築して来た。 だから「自分はこうありたい」って思ったら意地でそう在る自分が好き。 なので、思想的にはレドフォードの基本姿勢は決して肯定はしない。 ただ、人はみんな一つ堅固な意思の固まりになるのは無理な話で、とねにゆらいでいりものであり、そのなかには自分の弱さをゆるしてやる部分も当然あってしかるべきなのだ。なので世間のなかで、それをきちんと表現できる人がいることはとっても素敵だ。 出来るなら『惑星ソラリス』をレッドフォードに今一度とってみてもらいたいものだ。。。 この映画はかなりプロパガンダの要素をもっている。それは共和党とか民主党とか、そういうことじゃなくって、政治というのはどうしても強い自分だけを参加させる場のように思われるが、露骨な表現をすると、もっと弱い自分を参加させてもいいじゃないか?ってことなのかもしれない。 レッドフォード映画の基本姿勢はつねに「自分の中の弱さを許してあげようよ」ってものだと思う。それは『普通の人々』からずっとかわらない。レッドフォードは「自分の中の弱さを許してあげようよ。それを含んだまま強くなっていいんじゃないか・・・」というのが基本スタンスなのだ。きっとレッドフォードはとてつもなく心が豊かなひとなのだ。 私は共和党びいきなので、民主党よりの映画にはちょっといやな部分もあるのだけど、レッドフォードの分析力とやさしい愛には感服する。久しぶりに見る価値のある映画をみせてもらった気分だ。 PS:『羊たちの沈黙』が商標登録されてなかったらこの題名を使ってほしかった。入れ替えて『沈黙の羊たち』でも良かったのに。で
by ssm2438
| 2009-01-27 04:18
| R・レッドフォード(1936)
|
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主観重視で映画の感想を書いてます。ネタバレまったく考慮してません。☆の数はあくまで私個人の好みでかなり偏ってます。エンタメ系はポイント低いです。☆☆=普通の出来だと思ってください。 by ssm2438 リンク
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